2010.05.03

幸せのお守りと、幸せの万年筆(幸せになれるオリジナル小説)

幸せのお守りと、幸せの万年筆


都会の片隅に小さな公園がありました。 公園の隅にはちょっとしたベンチがあります。 

今、冴えない風貌の男がやって来て、ベンチに腰掛けたところです。 男は座った瞬間に、ふーっと深いため息をつきました。

彼は就活中でした。 今日も面接を受けたのですが、その場で断られてしまって意気消沈していたのです。 この時代だからというのもありますが男にはハンデがありました。 実は刑務所から出たばかりだったのです。

かといって凶暴な人間ではありません。 最初は生活苦から物を盗んだのですが、案外うまく行ってしまい、やめようやめようと思いながらも盗みを続けてしまった結果、御用となったのです。

刑務所から出てとりあえず、ある人の計らいでアパートを借りることはできました。 でもまだ、仕事は見つかっていないのです。



ふと気づくと、男のそばに中学一年くらいの女の子が来ていました。 明らかに中学生のようですが少し様子が変です。 その子はにこにこして男の隣に勝手に座ってしまいました。

知恵が遅れているのかなと男は思いました。 気まずい雰囲気に席を立とうとも思いましたが、疲れて少し休みたかったので、男はそのまま座っていました。

すると、女の子が何かをカバンから取り出しました。 そっとのぞき見ると、それは布製のお守りのようです。 ピンクの布に紺色の糸で「おまもり」と刺繍されています。

その長方形のお守りには、お花やちょうちょ、四つ葉のクローバーまでかわいらしく刺繍されていました。 男は思わず微笑みました。 女の子は、その手づくり感いっぱいのお守りをいじっています。



空は曇っていました。 今にも雨が降り出しそうです。 男は我に返り、また深いため息をつきました。 重々しい空気が流れています。

すると突然、女の子が男に話しかけてきました。


「これはお母さんがつくってくれたの。 しあわせのお守りなの」

「そうかい、それはよかったね」


仕方なく男が言葉を返すと、女の子はお守りを手のひらに乗っけて男にさし出すのです。


「はい、あげる!」


えっ? 男は耳を疑いました。 男がただただ驚いていると、女の子はもう一度言いました。


「あげる。 お守りあげる!」


この子にはわかってないんだ。 かわいそうに、大切なお守りだってことさえ理解できないくらい、知恵が遅れてるんだと男は思いました。
 

「おじょうちゃん、これはもらえないよ。 お母さんが作ってくれたんだろう? 大切なお守りだから、きみが持っていないとダメなんだよ。 さぁ しまっちゃいな」


ところが女の子は首を横に振るのです。


「あげる! お母さんがつくってくれたお守りあげる。 たいせつなお守りあげる。 しあわせのお守りあげる」


そう言いながら、ぐいぐいっと手をさし出すのです。 


「困ったなあ。 いいかい、もう一度言うけど、お母さんがきみのために作ってくれたんだ。 おじさんにあげちゃったら、お母さん悲しむよ」


女の子はまたまた首を横に振りました。


「お母さんは悲しまない。 お母さんはよろこぶよ。 幸せのお守りだからあげる。 幸せになれるからあげる」


あまりにしつこいので、男は根負けしてそのお守りを受け取りました。 でもこのままじゃ、この子が困るだろう。 そう思った男は紙とペンを取り出して、女の子のお母さん宛に、その場で短い手紙を書きました。

今のいきさつと感謝の言葉をしたためたのです。 ろくすぽ手紙など書いたことがありませんでしたから、大変でしたけど、女の子が帰ってしまわないうちに渡さなきゃと思って、知恵を絞っていっしょうけんめい書きました。



書き終わって、男ははっとしました。 今手紙を書いたペンは、柄にもなく万年筆でした。 男は、この万年筆だけは長年、大切に持っていたのです。

なぜなら、これは彼が中学に入学した時に親が買ってくれたものだったからです。 そのすぐ後、家庭は崩壊し、家族はばらばらになりました。 それから、親と暮らすことができなくなり、他人の家へ預けられたのです。

男はずっと親と会っていません。 会っていないけれど、唯一、親からの愛情の証であるこの万年筆だけは大事にしていたのです。

書き終えると男は女の子に手紙を渡しました。


「これをお母さんに渡してくれるかい」

「うん」 


そして、男はその万年筆を女の子にさし出しました。


「これはね、幸せの万年筆なんだ。 万年筆って知ってるかな、このペンのことだよ。 この万年筆には、たくさんの幸せのインクが入ってるんだ。 だからこれをきみにあげるよ」


女の子は何の迷いもなく、万年筆を受け取りました。


「ありがとう。 幸せのまん・ねん・ひ-つ。 ありがとう」


女の子はうれしそうに、万年筆と手紙を持って帰っていきました。



そして男もとうとう立ち上がりました。 曇り空もいつの間にか、晴れ間に変わっていました。 

男は女の子からもらった幸せのお守りをぎゅっと握り締め、小さなアパートへ向かって歩いていきました。




~おしまい~



読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!

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この記事へのコメント
こんな刹那の出会いにも他生の縁があるのかもしれない。
そうでなければ説明できないものがある。
深い話。
Posted by ぴゆう at 2010.05.15 17:17 | 編集
こんにちは ぴゆうさん

週末の午後 のんびり過ごしてますかー。
深い話なんて言ってくださって光栄です。
数分の出会い、そこにも縁があるのかも知れませんね。
うん、きっとそうだね!
Posted by シャイドリーマーより ぴゆうさんへ at 2010.05.15 17:25 | 編集
この男性は、とても温かい出会いが出来たんですね。
この出会いが男性の心に光を射したのでしょうか。。

とても、柔らかい気持ちになりました。
Posted by ボス。 at 2010.05.15 20:42 | 編集
こんばんは
読ませて頂きました。感動しました。知らない間に見逃してる優しさ。忘れてはいけないのですね。
Posted by Me. at 2010.05.15 22:25 | 編集
こんばんは。

そうですね、私としては、この出会いがあったことで
この人が前向きになれて、そしてできれば仕事もゲットできて
そんな展開になればいいなと思ってます。
てか フィクションですけどね。

ボスさんの優しさしかと受け取りました。 ありがとう。
Posted by シャイドリーマーより ボスさんへ at 2010.05.15 23:14 | 編集
こんばんは。

週末に読んでくれてありがとうございます。
その上素敵なコメントまで。
感謝します!
明日はハッピーな日曜日を過ごしてくださいね。
Posted by シャイドリーマーより Me.さんへ at 2010.05.15 23:15 | 編集
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