画伯と弟子とユーモアと (幸せになれるオリジナル小説)

画伯と弟子とユーモアと


あるところに”画伯”と呼ばれる男がいました。 画家としての地位も名声もすべて手に入れたその男は、悠々自適で大邸宅に暮らしていました。 

画伯は独り者で、使用人数名と多くの弟子達とともに暮らしていました。 根が寂しがりやの画伯は弟子達をわが子のようにかわいがってきたつもりでいました。 ところが最近、弟子達との関係がぎくしゃくしているのです。

歳とともに偏屈になっていく画伯に弟子達は怯えるばかり。 不自然に気を使っています。 それがわかっているからなおのこと、画伯の心はどんどん寂しくなっていくのでした。

ある日。 事件が起きました。 画伯が留守だと思い込んでいた弟子達が、リビングに集まり、すっかりくつろいで大笑いしているのです。 

「あははは! おまえの絵すごいな! 画伯の特徴をよくとらえてる」

画伯は気になりドアをあけました。 その瞬間、弟子たちは凍りついてしまいました。 まさか画伯が帰ってきていたとは夢にも思わなかったのです。 画伯は重々しい表情で弟子のひとりに声をかけました。

「一体何事だ? 絵がどうのといってたな!」

弟子の一人は青くなってとっさに”その話題の絵”を後ろに隠しました。 画伯は目ざとくそれを見つけ、絵をひったくってしまいました。 すると・・・

そこには画伯をおちょくった、ギャグのような似顔絵が描かれていたではないですか。

「誰が描いたんだ?」

・・・と、一人の弟子がおずおずと前に出てきました。 最近、弟子入りした、まだ幼い顔をした少年でした。

画伯は今では、弟子を入れるのも助手にまかせていたのです。 だから入ったばかりのこの弟子の顔に見覚えがありませんでした。 そういえばいたかな?程度だったのです。

「僕が描きました。 すみません、申し訳ありません」

弟子は深々と頭を下げました。 皆、直視できず、下を向いています。 恐ろしい時間が流れました。

ところが・・・画伯は突然、ぷっと吹き出したのです。 そして今度は大声で笑いを爆発させました。

「わっはっは! これはおかしい。 この絵はワシそのものだ。 あっはっは、あっはっは!」

画伯は顔を真っ赤にして笑っています。 しまいには涙を流して笑っているのです。 それを見た弟子たちは唖然としましたが、やがてつられて笑い出してしまいました。 

その日の夜、画伯はその絵を描いた弟子を呼びました。 今度こそ怯える弟子に、画伯はやさしく言いました。

「おまえには才能がある。 どうしてこんなに愉快な絵が描けるのか。 一つワシに聞かせてくれ。 おまえはどんな家庭に育ったのだ?」

そしてここから先は弟子が語った話ですが、特別にあなたにもお教えしましょう。

「僕はたいへん貧しい家庭に育ちました。 父はたまにしか働かず母は体が弱くて横になってることも多かったのです。 僕は五人兄弟の真ん中でした。 こんな家庭でしたが一つだけ誇れることがありました。 

それはみな、そろいもそろって”笑うこと”が大好きだったということです。 笑うのにお金もかからない、道具も要らない。 こんなにいいことはないと母はよく言ってました。

父がまた仕事をやめたといっては皆で、やっぱりねぇと大笑いするんです。 誰も悲しまないんです。 兄弟たちはお笑いが大好きで、おもしろおかしい話を聞いてきては、家族に聞かせました。 一人がおもしろい話を持ってくると、次には負けじと、誰かが笑い話をさがしてくるといった感じです。

僕は家族で一番無口でしたが、唯一絵だけは得意でした。 少しでも家族を笑わせたくて、いつもたくさん絵を描いていました。 おもしろい似顔絵やギャグマンガなど、いろいろ描きました。

家族はいつも大笑いし、おまえは絵の天才だって言ってくれてました。 本当は絵の学校にも行きたかったのですが、家にはお金がありません。 

中学を卒業し働きに出ようと思っていたところ、たまたま画伯の助手の方と出会ったんです。 そしてとんとん拍子に弟子入りが決まり、こちらにこうして住まわせてもらえるようになったんです」

画伯は弟子の話を聞いて、あることを思い出していました。 画伯の家は少しも貧しくはなかったのですが、子ども時代にしていたことは酷似していました。  画伯も、おもしろおかしい絵を描いてはまわりを笑わせていたのです。 

ところが今では画伯の絵を笑う者は一人もいません。 皆、傑作だ、大作だと褒め称えてはくれますが、絵を見て笑い転げる者などいるはずもありません。

画伯はふと弟子にたずねました。

「幸せのコツとは? どんなことだと思う?」

弟子はとっさの質問にすぐには言葉が出てきませんでした。 こんな質問をされるとは夢にも思わなかったのです。

「なんでもいいから思う通り、言ってごらん」

「はい、幸せのコツとは、笑うことだと思います。 母が言ってました。 笑っているうちに楽しくなる。 笑ってるうちに幸せになるって。 笑うことが一番いいことだって。 だから笑うこと、皆で笑うことが幸せのコツだと思います」

画伯は満足そうに何度もうなずくと、弟子に言いました。

「おまえは若いが大切なことを知っとる。 これからはこそこそしないで、遠慮なく好きな絵を好きなだけ描きなさい。 おもしろい絵でも何でも構わない、一番描きたいものを描きなさい」

そしてこの日からこの家の雰囲気もすっかり変わりました。 弟子達も画伯も冗談を言い合い、大いに笑うようになりました。 もともと才能豊かだった例の弟子も、おもしろおかしい絵から、ほのぼのとした絵、美しい絵まで自由に表現するようになりました。

画伯がそう易々と指導することはありませんでしたが、気が向くとふらりと来て有益なアドバイスをくれるようにもなりました。

人は幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せになる、なんてこと聞いたことはありませんか?  今の状況がどうであれ、意識的に笑ってみてはいかがでしょう。 今日から。 今から。


~おしまい~


読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!






関連記事

Comment

画伯........
去年の目標  笑声笑語笑顔 でした。
そして一生の目標でもあります。
おかげ様で、いつでも笑えるようになりました。その為、、辛いこと悲しいことが、殆んどなくなりました。
自分には文才が無いんで、自分の想いを shyさんが表現してくださっている感がして、、、嬉しいです。
ありがとうございました。e-257
和かた整体処さんへ
こんにちは。

>おかげ様で、いつでも笑えるようになりました。その為、、辛いこと悲しいことが、殆んどなくなりました。

これすごいですよ。 実際に効果があったんですものね。 素敵なエピソード聞かせてくれてありがとうございます。 これからもお互い、たっくさん笑って生きていきましょうね。
今日も良いお話
いつも良いお話を有難うございます。

そうですね~。
こういう風に時々原点に回帰することは
本当に大切なんだよなぁと思いださせられました。

他のお話も良いお話ばかり。とっても素敵です。
お陰さまでとってもリラックスできました。また伺いま~す。
とても良いお話でした! シャイさんの実話ではないそうですが、シャイさんの実話のように感じました!「笑顔」でいれば、どんな事も乗り越えていけそうですね。
  • 2010/03/06 12:41
  • ユカリ
  • URL
ジャパンブルぅさんへ
こんにちは。

温かいコメントありがとうございます。
詩に比べて浮かぶ確率は少ないのですが、また
リラックスできるお話を思いついたらアップしますね。

リラックスといえば・・・ジャパンブルぅさんの写真
今日も癒されちゃいました。 ありがとう♪
ユカリさんへ
こんにちは。

ユカリさん、いい週末過ごしてますかー?
そうなんです、実話ではないのですが、思い浮かんだお話のひとつひとつは
実話も同然、とても鮮やかに浮かんできます。
気に入っていただけてよかったです♪
引き続き、よい週末をお過ごしくださいね。
自分にとって辛いことも

笑い飛ばせたら

どんなに楽になるだろうなぁ
kemoさんへ
こんにちは。

きっとなりますよ。
10年後、20年後にはね♪♪
Comment Form
公開設定

Trackback


→ この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)