小さな町工場とエクボさんの話(幸せになれるオリジナル小説)

小さな町工場とエクボさんの話


ここは都会の片隅にある、小さな町工場です。 特殊な分野を扱っているため、こういう時代ですがなんとか生き残っています。 

この工場を支えているのは、数名の元気な女性社員たち。 男性は社長だけです。 社長は昔かたぎの職人肌。 義理と人情に厚い人です。 そして何より頼りになるのが、面倒見のいい奥さん。 アットホームな雰囲気を保ってこれたのも、この奥さんのおかげです。

従業員の誕生日には、昼休みの時間を拡大してミニ誕生日会も行われます。 紅茶と奥さん手づくりのケーキが振舞われるのです。 

2月のある寒い日のこと。 この日はある従業員の誕生日でした。 でもいつもと少し様子が違っていました。 というのも、肝心の本人が入院中だったのです。 幸い、大事には至らなかったのですが、この社員さん、身体的にハンデがありまして、体調を崩すこともたびたびで入院も珍しくないのです。

この社員は20歳そこそこの女の子。 いつもニコニコしていてエクボが印象的なので、みんなからエクボさんと呼ばれていました。 体の面でもそうでしたが、彼女には軽い知的障害もあり、なかなか他の社員と同じような仕事ぶりとはいきませんでした。 

本人は一生懸命なのですが、何をやっても遅いのです。 それでまわりの人たちにどうしても負担をかけてしまうんですね。 最近、社員たちの間で、エクボさんに対する厳しい意見が出てくるようになっていました。

「入院中のエクボさんには悪いけど、彼女がいるとかえって仕事がはかどらないのよね」

「私も実はそう思ってた。 同じ給料なのにこっちが損しちゃうよね」

「ほんとは他の人を雇ってくれた方がずっといいのにね」

ところで先ほどもいったように、その日はエクボさんの誕生日だったわけで、本来ならお昼にお誕生日会が開かれるはずだったのですが・・・奥さんは一体どんな手を打ったでしょうか。

奥さんは社員の皆さんを集めました。 そして従来どおり本人不在のまま、皆にケーキと紅茶を出したのでした。

「今日はエクボさんの誕生日。 みんなでお祝いしましょ。 残念ながらエクボさんはここにいないけど。 そのかわりに、入院中のエクボさんから手紙を預かってきました。 さぁさ、皆さん遠慮なく召し上がって。 今から読みますから、みんな食べながらでいいので聞いてくださいね」

皆は「エクボさんに手紙なんか書けるの?」と思ってしまいました。 誰も口に出さないけれど、誰もが一瞬そう思ってしまったのでした。 さて。 奥さんはエクボさんの手紙を開き、読み始めたようです。 

あなたも一緒に聞いてください。

「みなさん 今日はわたしのたんじょうびをいわってくれるそうですね。 どうもありがとうございます。 ほんとうにうれしいです。 今日はみなさんに ありがとう をいおうと思っていました。 でもわたしは入院しているので、手紙を書くことにしました。

みなさん いつもありがとう。 社長さん、いつもお仕事教えてくれてありがとう。 奥さん、いつもやさしくしてくれてありがとう。 おいしいケーキもありがとう。 

佐藤さん、いつも大きな声で おはようっていってくれてありがとう。 菊池さん、いつも間違ったとき、教えてくれてありがとう。 中野さん、いつも買い物の話を聞かせてくれて、ありがとう。 山中さん、いつも彼氏の話を聞かせてくれてありがとう。 松村さん、いつも 遅くてもいいんだよといってくれてありがとう。 伊藤さん、いつもボタンはずれていることを教えてくれてありがとう。 

みなさんが大好きです。 工場で働けてしあわせです。 でもときどき悲しくなります。 今日はおもいきってその話をします。

わたしはみなさんと同じようにできません。 それで仕事がおそくて迷惑をかけるのがとても悲しいです。 おうちに帰って、思い出して泣くことがあります。 うちに帰ってからも、お仕事の練習をすることもあります。 それでも仕事がおそいです。

私はときどき具合が悪くなって入院します。 だからまた迷惑をかけてしまいます。 それにみなさんのお話がわからないことがあります。 何度も聞いてしまうから、また迷惑をかけてしまいます。

人に迷惑をかけないようにとお母さんにいわれてきました。 なんでもいっしょうけんめいやりなさいといわれてきました。 いっしょうけんめいやっても迷惑をかけることがある。 だからそれを考えると悲しくてたまりません。

わたしは考えてもわからないときはお母さんに聞きます。 お母さんはいろんなことを教えてくれます。 いっしょうけんめいやっても迷惑をかけるとき、どうしたらいいの?ってお母さんに聞いてみました。 お母さんはこう教えてくれました。

いっしょうけんめいやることが一番大切なこと。 それでも迷惑をかけてしまったと思ったら、ごめんなさいって謝ればいいのよ。 あなたがするべきことはメソメソすることじゃない。 次はうまくいくように、いつもいっしょうけんめいやりなさい。 それでもダメなら、また次うまくいくように。 いつも、いっしょうけんめいやりなさい。

あなたのいいところはその笑顔。 笑った顔は世界で一番かわいいよ。 いつもニコニコしていること。 楽しくなくても、ニコニコしているうち、楽しくなってくるのよ。 自分も楽しくなるし、まわりも楽しくなる。 ニコニコほど、いいものはないのよ。

悲しいときは泣いてもいい。 でもたくさん泣いたら、涙さんきっと、もういいよ~って言い出すよ。 おーい そろそろニコニコさんに戻ってもいいんじゃないかーい?って聞いてくるよ。 そしたらニコニコさんに戻りましょう。 

前にも言ったけど、あなたはすぐに忘れちゃうから、今度こそ覚えておいてね。 幸せの基本を守っていれば、だいじょうぶです。 

幸せの基本は、今言ったことをまとめただけよ。 まず、なんでもいっしょうけんめいやること。 いつもニコニコしていること。 それと基本の言葉を忘れないことね。 基本の言葉っていうのは、朝は”おはようございます” 昼は”こんにちは” 夜は”こんばんは” 

間違ったときは ”ごめんなさい” お仕事が終わって先に帰るときは”お先に失礼します” 誰かが仕事を終えるときは ”お疲れさま”

そして、いちばん幸せな言葉は ”ありがとう” あなたは笑顔もかわいいけれど、声もかわいい。 せっかくの声を使わなきゃ損、損。 それも一番幸せな言葉を使わなきゃ。

ありがとう。 これはいくら言ってもいいのよ。 ありがとうを言ったあなたは、どんどんしあわせになれるし、ありがとうを言われた人も同じようにしあわせになれるの。 みんなを幸せにする言葉なのよ。 

何があってもいっしょうけんめいやりなさい。 いつもニコニコしていなさい。 いつも、明るくあいさつしなさい。 いつも、ありがとうを言いなさい。 ボタンかけ忘れてもいいけど、これだけは忘れちゃだめよ。

お母さんはそうお話してくれました。 わたしは上手に手紙が書けないので、ごめんなさい。 でも今日は、みなさんに、ありがとうをいいたくて、一万回くらいいいたくて、お手紙にしました。

みなさん、いつもありがとう。 退院したら、いっしょうけんめいやります。 たくさんニコニコします。 たくさん、あいさつします。 もっともっと、ありがとうを言います。 

みなさん、寒いですからからだに気をつけてね。 また働けるようになったら、ほくほくのヤキイモをさし入れするね。 みんなで食べようね。 

どうも ありがとう。 エクボより」

一週間が過ぎました。 エクボさんはめでたく退院し、2,3日お家で静養した後、職場に戻ってきました。 手紙にあったとおり、ほくほくのヤキイモを持って出社しました。 

工場の奥さんは退院祝いと、もう一度お誕生日のお祝いということで、またまたお昼休みを延長して、手づくりケーキを皆に振舞いました。

そこにはたくさんの笑顔がありました。 もう誰も、エクボさんのことでグチをこぼすものはいませんでした。 

都会の片隅の、小さな町工場。 とっても地味な工場だけど、そこには愛があふれています。




~おしまい~


読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!


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Comment

素敵なお話をありがとう。シャイさんは、いつも忘れてしまいがちな事を教えてくれますね。
  • 2010/02/20 07:31
  • ユカリ
  • URL
歳のせいでしょうか?
町工場の皆さんのせいでしょうか?
泣いてしまいました。
でも、キット嬉し涙と幸せ涙でしょう。

自分の生き方、、、今のままで良いんだなー、、、笑語 笑声 笑顔 これからも心に刻みながら、上を目指そうと想いを強くしました。
ありがとう アリガトウ ありがとうございました。 柳宏
ユカリさんへ
こちらこそ、ありがとうございます。
ユカリさん 素敵な週末を過ごしてくださいね。
  • 2010/02/20 09:31
  • シャイドリーマーより ユカリさんへ
  • URL
和かた整体処さんへ
こんにちは。

歳のせいではなく、和かたさんの心がきれいだからだと
思いますよ♪ 
小さなお話が、幸せの参考になれればこんなうれしいことはありません。
素敵なコメント、ありがとうございました。
よい週末を。
  • 2010/02/20 09:38
  • シャイドリーマーより 和かた整体処さんへ
  • URL
おはようございます。

こころに染み入る、素敵なお話を
ありがとうございます。

涙が自然に流れていく自分は
忘れていることを教えられたようで
とても嬉しかったです。

ありがとうございます。

あなたに
幸多き一日でありますように。
  • 2010/02/20 10:13
  • 希望
  • URL
希望さんへ
こんにちは。

こちらこそ温かいコメントありがとうございます。
詩と違って、ショートショートは長めなので、読んでもらえるか心配なのですが
そう言っていただけると、アップしてよかったと思えます。
希望さんも、どうぞよい週末をお過ごしになってください。
  • 2010/02/20 10:41
  • シャイドリーマーより 希望さんへ
  • URL
こういう気持ち本当に忘れてしまっています。
ありがとうございます!
  • 2010/02/20 11:29
  • 骨じい
  • URL
シャイドリーマーさん・・良いお話し有り難う・・社会の歯車の回るのが早すぎて・・ついていけないエクボさんのような純真な人こそ今の時代に大切な人だと思います・・世の中悪賢い者がはびこっていますからね・・無理しないでお体を大切に・・ね。
骨じいさんへ
こんにちは。

こちらこそ、ていねいに「ありがとう」を
言ってくださって、ありがとうございます。
よい週末をお過ごしください。
  • 2010/02/20 12:06
  • シャイドリーマーより 骨じいさんへ
  • URL
でんちゃんへ
こんにちは。

そうなんですよね。 エクボさんのよさに注目してくださって
うれしいです。 皆がこういう心を持った人だといいですね。
でんちゃんの優しい気持ちが伝わってくる、すばらしいコメントに
感激しました。 でんちゃんも寒い日が続くけど、お体大切に
してくださいね。
  • 2010/02/20 12:08
  • シャイドリーマーより でんちゃん(でんどう三輪車さん)へ
  • URL
今 お昼ごはんを食べ終えて 読んでます。
目がウルウルしてしまい
恥ずかしいので 妻と目をあわせないように してしまいました。

ありがとう 一番幸せになれる言葉ですね
この言葉 これから 肝に銘じて
生きて行きたいと 思いました。
気づかせていただき ありがとうございました。
ピオーネ親父さんへ
こんにちは。

食後に読んでくださり、ありがとうございます。
ピオーネさん・・・奥さんと目を合わさないようにしちゃったんですか。
なんか かわいいですね(失礼)

ありがとうの言葉、単純だけど 幸せの言葉ですよね。
いろんな形で伝えていきたいです。

ピオーネさん 素敵なコメントありがとう。
  • 2010/02/20 14:10
  • シャイドリーマーより ピオーネ親父さんへ
  • URL
こんにちは。
心に沁み入る話ですね。
ボスもエクボさんのようになりたいです。
ボスさんへ
こんにちは~。

ボスさんも笑顔のきれいな人だと思うよ~。
週末 たのしんでね。
  • 2010/02/20 17:47
  • シャイドリーマーより ボスさんへ
  • URL

エクボさんの話・・
暑い日に飲む冷たい水のような感覚で
スーッ!と心の中にとけて行きました。
素敵なお話をありがとう(^。^)/
少し・・・・・
・・・・・・・・・・泣いた。。
  • 2010/02/20 19:45
  • anjou
  • URL
anjouさんへ
こんばんは。

思ってた通り、anjouさん
優しい人だなぁ。
こちらこそ、ありがとうございます!
明日は素敵な日曜日、過ごしてくださいね。
  • 2010/02/20 22:13
  • シャイドリーマーより anjouさんへ
  • URL
待ってました!
今回も素晴らしいお話ありがとうございました

エクボさんの気持ちすごくよくわかります
まるで自分のことのようです
ワタシも一生懸命やってるつもり
でも周りにたくさん迷惑をかけます
だからもっともっと頑張らないと・・・といっぱい自分にプレッシャーをかけて苦しくなります

このお話を読んで
一生懸命にすること、ニコニコ笑顔、
心からのあいさつ

いつも意識して失敗しても
明るく幸せに人生を楽しみたいと思います

シャイさんほんまにありがとう!


tomochokoさんへ
こんばんは!

待ってました なんて言ってくれて ありがとうございます。
今までの人生、たくさんたわいもないお話を思いついても
誰に見せるでもなく、自分の想像の世界に封じ込めてきましたが
ブログのおかげで、こうやってお見せできるようになりました。

tomochokoさん、大阪の方なのかな(というか関西?)
ほんまにありがとう って・・・素敵な響き!
私も真似させてね。 こちらこそ、ほんまにありがとう。
  • 2010/02/20 23:48
  • シャイドリーマーより tomochokoさんへ
  • URL
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