ふたりぼっちのクリスマス(幸せになれるオリジナル小説)
ふたりぼっちのクリスマス
その国では、クリスマスには家族と過ごすのが習慣でした。 クリスマス休暇直前のある日のこと。 パン職人見習いの少年が途方に暮れてため息をついていました。 少年には家族が一人もいなかったのです。
少年はその街で一番有名なパン職人に弟子入りしていました。 そしてその家の屋根裏部屋に下宿させてもらっていました。 もうここに勤めて3年になります。 去年までは、クリスマスになると唯一の身寄りである叔母の家に身を寄せていたのですが、今年は少々事情が違います。
未亡人だった叔母は、夏に再婚したのです。 夏に訪れた少年に対して、叔母は今までとは違う冷たい態度で接してきました。 それとなく、クリスマスには来ないでほしいといわれたのです。 というわけで今年のクリスマス、少年はひとりぼっちで過ごすことになってしまったのです。
パン職人のおかみさんは優しい人でした。 少年は思い切って、今年はこのまま、屋根裏部屋に置いてほしいといおうとしたのですが、その前におかみさんがこんなことをいってきたのです。
「今年も叔母様のところに行くのでしょう? 私たちは南の国へ旅行に行ってしまうけれどだいじょうぶよね?」
なんと旅行に行ってしまうというのです。 少年は気を使うあまり、心にもないことをいってしまいました。
「はい、だいじょうぶです。 叔母が今年も絶対来てくれっていうものですから!」
おかみさんはにっこり微笑んで、少年に包みを渡しました。
「がんばってくれたから、ほんのボーナスがわりにどうぞ。 叔母さんたちと何かおいしいものでも食べてちょうだい」
部屋に戻って包みをあけると、びっくりするほどのお金が入っていました。 ああ、これなら一週間、どこか安い宿に泊まれる。 どうにかしのげるな。 少年は少しほっとしたのでした。
クリスマス・イブの朝。 少年はパン職人の家を出て街を歩いていました。 公園の近くまでくると、おいしそうなコーヒーの香りがしてきました。 時々、スタンドでコーヒーを売っているのです。
一杯のコーヒーを買った少年は、公園の中に入っていきベンチに腰掛けました。 自分の座っているところの横に包みを置いて、熱いコーヒーをすすっていると・・・何者かが現われたのです。
汚い布を頭巾のようにかぶった女性でした。 その女性はさっと手をのばし、少年の包みを取ってしまったのです。 どろぼうです!
「待て!」
少年はどろぼうを追いかけました。 相手は女性です。 体力のある少年はほんのわずかの間に、その女性のどろぼうを捕まえてしまいました。
少年は乱暴にどろぼうの腕をつかみました。
「離して、おねがい。 返すから」
その表情を見た少年ははっとしました。 女性といっても、よく見るとまだまだ幼さの残る顔。 少年とたいして歳の変わらない少女です。 彼女の顔は泥で薄汚れており、本当の顔がよくわからないほどでした。
「なんでこんなことするんだ」
少年は少しトーンを落として、少女に話しかけました。 すると少女は身の上話を始めました。
少女には親も兄弟もなく、親戚に引き取られて暮らしていました。 叔父は優しかったのですが、ヤキモチを焼いた叔母に追い出されてしまったというのです。
おりしもクリスマス・シーズン。 仕事を求めてさまよい歩きましたが、雇ってくれる店などありません。 三日もの間、少女は家も食べる物もお金もなく、公園にいるしかなかったのです。
少年はその薄汚れた少女の顔をのぞきこみました。 嘘は言ってない。 直感的にそう思いました。 少女の目は碧く、瞳の奥は澄んでいました。
かわいそうに・・・ 少年はとっさにその包みを、少女に押しつけるように渡しました。
「あげるよ。 全部持っておいき」
ところが少女はその包みを押し返してきたのです。
「これはきっと、あなたが稼いで手にしたお金なんでしょう。 わたし、どうかしてました。 ごめんなさい。 あなたのお金をもらうことなどできません」
そして、少女はそのきれいな目から、透明の涙をポタポタと落としました。
と、ここで。
この続き、あなたはどうなったと思いますか? ハッピーエンドがお好きなあなたに、こんな締めくくりを用意してみました。 もう少しだけおつきあいください。
お互いを見つめ合った二人。 二人はその瞬間、恋に落ちてしまったのです。
夜になりました。 若い二人は、なかよく並んで夜の街を歩いていました。 冬の寒さも気になりません。
空にはキラキラお星さま。 その横でちっちゃな天使さまたちが二人を祝福してくれています。
明日はクリスマス。
ふたりぼっちの、ホワイトクリスマスになりそうです。
~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!
その国では、クリスマスには家族と過ごすのが習慣でした。 クリスマス休暇直前のある日のこと。 パン職人見習いの少年が途方に暮れてため息をついていました。 少年には家族が一人もいなかったのです。
少年はその街で一番有名なパン職人に弟子入りしていました。 そしてその家の屋根裏部屋に下宿させてもらっていました。 もうここに勤めて3年になります。 去年までは、クリスマスになると唯一の身寄りである叔母の家に身を寄せていたのですが、今年は少々事情が違います。
未亡人だった叔母は、夏に再婚したのです。 夏に訪れた少年に対して、叔母は今までとは違う冷たい態度で接してきました。 それとなく、クリスマスには来ないでほしいといわれたのです。 というわけで今年のクリスマス、少年はひとりぼっちで過ごすことになってしまったのです。
パン職人のおかみさんは優しい人でした。 少年は思い切って、今年はこのまま、屋根裏部屋に置いてほしいといおうとしたのですが、その前におかみさんがこんなことをいってきたのです。
「今年も叔母様のところに行くのでしょう? 私たちは南の国へ旅行に行ってしまうけれどだいじょうぶよね?」
なんと旅行に行ってしまうというのです。 少年は気を使うあまり、心にもないことをいってしまいました。
「はい、だいじょうぶです。 叔母が今年も絶対来てくれっていうものですから!」
おかみさんはにっこり微笑んで、少年に包みを渡しました。
「がんばってくれたから、ほんのボーナスがわりにどうぞ。 叔母さんたちと何かおいしいものでも食べてちょうだい」
部屋に戻って包みをあけると、びっくりするほどのお金が入っていました。 ああ、これなら一週間、どこか安い宿に泊まれる。 どうにかしのげるな。 少年は少しほっとしたのでした。
クリスマス・イブの朝。 少年はパン職人の家を出て街を歩いていました。 公園の近くまでくると、おいしそうなコーヒーの香りがしてきました。 時々、スタンドでコーヒーを売っているのです。
一杯のコーヒーを買った少年は、公園の中に入っていきベンチに腰掛けました。 自分の座っているところの横に包みを置いて、熱いコーヒーをすすっていると・・・何者かが現われたのです。
汚い布を頭巾のようにかぶった女性でした。 その女性はさっと手をのばし、少年の包みを取ってしまったのです。 どろぼうです!
「待て!」
少年はどろぼうを追いかけました。 相手は女性です。 体力のある少年はほんのわずかの間に、その女性のどろぼうを捕まえてしまいました。
少年は乱暴にどろぼうの腕をつかみました。
「離して、おねがい。 返すから」
その表情を見た少年ははっとしました。 女性といっても、よく見るとまだまだ幼さの残る顔。 少年とたいして歳の変わらない少女です。 彼女の顔は泥で薄汚れており、本当の顔がよくわからないほどでした。
「なんでこんなことするんだ」
少年は少しトーンを落として、少女に話しかけました。 すると少女は身の上話を始めました。
少女には親も兄弟もなく、親戚に引き取られて暮らしていました。 叔父は優しかったのですが、ヤキモチを焼いた叔母に追い出されてしまったというのです。
おりしもクリスマス・シーズン。 仕事を求めてさまよい歩きましたが、雇ってくれる店などありません。 三日もの間、少女は家も食べる物もお金もなく、公園にいるしかなかったのです。
少年はその薄汚れた少女の顔をのぞきこみました。 嘘は言ってない。 直感的にそう思いました。 少女の目は碧く、瞳の奥は澄んでいました。
かわいそうに・・・ 少年はとっさにその包みを、少女に押しつけるように渡しました。
「あげるよ。 全部持っておいき」
ところが少女はその包みを押し返してきたのです。
「これはきっと、あなたが稼いで手にしたお金なんでしょう。 わたし、どうかしてました。 ごめんなさい。 あなたのお金をもらうことなどできません」
そして、少女はそのきれいな目から、透明の涙をポタポタと落としました。
と、ここで。
この続き、あなたはどうなったと思いますか? ハッピーエンドがお好きなあなたに、こんな締めくくりを用意してみました。 もう少しだけおつきあいください。
お互いを見つめ合った二人。 二人はその瞬間、恋に落ちてしまったのです。
夜になりました。 若い二人は、なかよく並んで夜の街を歩いていました。 冬の寒さも気になりません。
空にはキラキラお星さま。 その横でちっちゃな天使さまたちが二人を祝福してくれています。
明日はクリスマス。
ふたりぼっちの、ホワイトクリスマスになりそうです。
~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!