2010.10.03

本当の自分 ~疲れちゃった あなたへ~


本当の自分 ~疲れちゃった あなたへ~


雑踏の中、足早に家路を急ぐ人々。 そんな人たちを見ていたら、ふと一年前の不思議な体験を思い出した。 雑踏の人々、表情が険しい。 多分 疲れているのだろう。

一年前の私のように・・・

私は中堅どころの某商社に勤めるしがない会社員。 確かにかろうじて役職にはついているが、会社自体がたいしたことないので、自分の地位もそれなりのものと思っている。

この世の中。 決して働きやすい世の中とはいえない。

だが私は一家の大黒柱。 妻子を養うのは男として当然のこと。 競争社会。 生き残っていかなければ。

とはいえ、正直にいうなら、私は身も心も疲れていた。 家ではいい父親を演じ、会社では明るくユーモアのある、話のわかる上司を演じている。

本当の私。 いったいどこにあるのだろう。

とみに気にかかっていることもあった。 よしこうなったら正直に話してしまおう。 

私は同期のAに対して嫉妬心を燃やしていたのだ。

Aは気のいいヤツだ。 私を真の友だといってくれる。 欠点が見当たらない。 私のように狭量ではないし優秀だし。

そんなAが海外へ転勤になった。 優秀なAだから当然といえば当然だが・・・私は出遅れた気がした。 

私は妻と職場結婚。 Aの海外行きはいとも簡単に妻に知れてしまった。

「いいわねぇ、オシャレなパリなんて夢のようね」

妻の一言に私はひどく傷ついた。 Aが途端に憎らしくなった。 醜い心をバクロして恥ずかしいが、本心なのだ。

ある日、馴染みの居酒屋に立ち寄った。 ひとりで行くのは珍しい。 気を使う相手もないから、好きに飲んでいたら、酒に強い私もさすがに酔ったようだ。

知人でもある居酒屋の主人は心配して、その店の二階、従業員の宿舎だった部屋に泊めてくれた。

酔っ払って寝てしまった私は、夢のようなものを見た。 多分、夢なのだろう。 だがその記憶はあまりに鮮明なものだった。

そこにはトランポリンのような、マットのようなものがあり、その上で小さな男の子が楽しそうにぴょん・ぴょん跳ねていた。

男の子の顔をよく見ると、見覚えのある顔だったが誰なのかはわからない。 私はその子に声をかけた。

「何してるんだい」

その子は答えた。

「遊んでるの。 たのしいよ」

「子どもは気楽でいいね。 なんにも考えないですむから」

子どもは何も答えず、跳ね続けた。

「坊や、どこかで見たことがある気がするんだが、名前はなんというんだい?」

「ぼくはね、あなたの”本当の自分”だよ」

なんだって? 私は聞き間違ったのかと思い、もう一度言ってくれるように頼んだ。

「ぼくはね、”本当の自分”って名前なんだ」

「本当のジブン? それが名前なのかい?」

「そうだよ。 あなたのだよ。 思い出して、ぼくを思い出して」

わけのわからないことをいう子だ。 その瞬間、私ははっとした。 この子はまるで自分の子どもの頃にそっくりではないか!?

そうか。 そういう仕組みか。 私は子どもの頃の夢を見ているんだ。

「わかった、きみは”昔の俺”なんだね。 だけどそれならなんで”本当のジブン”と名乗ったんだい?」

「だってぼくは、あなたの”本当の自分”だもん。 誰にもあるんだ、本当の自分が。 ある人は少しだけさかのぼれば見つかる。 ある人は赤ちゃんの頃まで戻らないと見つからない。 そしてある人は6歳までさかのぼれば見つかる、あなたみたいにね」

本当の自分、本当の自分。 

私の本当の自分ってどんなだろう? こんなお気楽で無邪気な少年が、本当の自分なのだろうか。

と、私はあることを思い出した。 田舎の母の言葉だ。

「あんたは都会へ出て性格が変わっちゃったねぇ。 昔はのんきで無邪気な子だったのに」

私は思い出しつつあった。 子供の頃を。 いや、本当の自分を。

本当の私。 それは競争を好まない平和主義。 人の言葉に左右されないマイペースな人間。 花を好み動物をなでるのが好きで、海や山の空気を楽しむ。

それが本来の私。 本当の私なのだった。

いつの間にか芽生えた、変な競争心。 よどんだ心。

これらすべてを都会のせいにしていいのだろうか? 大人になったから、家庭を持ったからという理由にしていいのだろうか?

私が疲れているのは、本当の自分でいないからだ。 ニセモノの自分として生きているからだ。

私は飛び跳ねている少年に再び、声をかけた。

「本当の自分に戻るにはどうしたらいいんだろうね。 今からでも戻れるかな?」

少年は答えた、相変わらず ぴょん・ぴょんしながら。

「だいじょうぶ。 もう気がついたから。 気づけばだいじょうぶなんだ。 思いだしてくれてありがとう。 これでぼくは帰れるよ」

意味深な言葉を残して、少年はフェイドアウトしていった。 

これは夢だったのだろうか? 単に酔いつぶれて見た、ノスタルジックな夢に過ぎなかったのだろうか??

次の日。 私は思い切って妻に、Aに対して思っていることを打ち明けた。

「こんなことを思ってしまう俺は嫌な人間なのかな?」

素直に聞いてみた。 すると妻は笑ってこう答えた。

「まさか。 誰だって嫉妬くらいするわよ。 私は別にパリに行きたいわけじゃない、あなたと子どもたちと笑いながら暮らせたら、それが一番。 それ以上望まないわ」

霧が晴れた気がした。

これからも私は、時に邪悪な気持ちが出てくることもあるだろう。 悩んだりもするだろう。 

そういう時は、思い出そうと思う。 

ぴょん・ぴょん跳ねていた、あの少年、いや、”本当の自分”を。 

これをここまで読んでくれたあなたも、毎日の生活に疲れているかもしれない。 人が羨ましくて憎らしくて、自分が惨めで好きになれないかもしれない。

でもそんなあなたも、最初からそうだったわけじゃない。 

思いだしてごらん。

遠い昔を。

思い出してごらん。

本当の自分を。 本当の自分が、きっとあなたを救ってくれるだろう。


~おしまい~



読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!

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