100円玉相談室(幸せになれるオリジナル小説)
100円玉相談室
ショッピングセンターの7階の片隅に、ひっそりとその相談室はありました。 なんでもたった100円で相談に乗ってくれるらしいのです。
今日も誰かが入っていったようですよ。 様子を見てみましょうか。
そこに入っていったのは、おとなしそうな女の子でした。 高校の制服を着ています。 女の子は常にうつむき加減でした。 お約束の100円玉をテーブルの上に置くよう指示された彼女は、高校生らしいかわいいお財布からお金を取り出して、テーブルの真ん中に置きました。
その後、相談内容を簡単に説明するようにと促され、彼女はゆっくり、考え考え、話し始めました。
「私の名前は〇〇絵里です。 今16歳で高校生です。 性格のことで悩んでいます。 私は人の言葉が気になってしまうんです。 ささいなことでも、言われたこと全部気になってしまうんです」
「たとえばですか? ええと、友達に”暗いね”といわれて落ち込みました。 部活をやってるのですが、先輩にも 元気がなさ過ぎる、もっと声を出すようにと注意されました。 わかってはいるんですけど、どうしても大きな声出せなくて」
「親からもいわれます。 妹はあんなにはつらつとしてるのに、なんであなたはウジウジしてるのって。 いったんそういうこといわれると、私ダメなんです。 よけい落ち込んじゃって」
「私ってなんてダメな人間だろうと思って。 食欲もなくなってきました。 友達みたいに明るくて、ものごとを気にしない性格になれたらと思います。 こんな性格でもなおるんでしょうか? 気にしない性格になる方法ありますでしょうか? もしよかったら、ぜひ教えてください」
相談を聞いているのは、占い師のような黒いベールをかぶった女性でした。 ベールがかかっているので表情は読めません。 ですが、声はとても柔らかで、やさしいのです。
彼女はそんな絵里にこう答えました。
「結論からいきましょうか。 絵里さんでしたね? あなたはだいじょうぶです。 心配には及びません。 あなたはとてもすばらしい方です」
「そんなけげんな顔をしなくてもいいんですよ。 あまりに唐突過ぎましたね。 順序良くお話しましょうか」
「あなたはすぐ気にする性格なんですよね。 人の言葉に敏感なんですね」
「でも、人の言葉に敏感だからこそ、絵里さん、あなたはお若いのに、自分が発する言葉にも大変、気を配ってらっしゃいますよね。 そう、今お話しになったようにです」
「人を傷つけるようなこと、決していいませんよね。 お友達にも、まわりの大人にも、言葉を選んで話してますよね」
「気にする性格だからこそ、気がついたこと、たくさんあるでしょう。 特にその、人への思いやりといいましょうか、言葉の使い方ですね。 その年でなかなか、できないことですよ」
絵里は今まで、性格のことで注意されたり、直せといわれたことは多々ありましたが、褒められたことはありませんでした。 それで、予想もしなかった言葉に心底、驚いてしまいました。
ベールの女性はさらに続けました。
「ここに、あなたの置いた100円玉がありますよね。 なんて書いてありますか?」
「そう 100という数字が書かれてますよね。 でも100円玉には裏面もありますよね。 はい、裏を返してみてください。 何がありますか? そう模様ですね」
「絵里さんはもしかしたら、100円玉の表か裏、どちらか一方ばかり見続けてきたのではないでしょうか」
「表を見続けていると、裏の模様のことなど想像もできなくなってしまう。 裏ばかり見ていると、表に何が書いてあったのかさえ忘れてしまう」
「性格も同じことなんですよ。 100円玉と同じなんです。 同じ性格にしても、表面もあれば裏面もある、いい部分もあれば悪い部分もあるのです」
「絵里さんは頭のいい方だから、もうおわかりになりましたね。 無理に生まれ持った性格を変えようとするのではなく、その性格のいいところも見てあげてください」
「だいじょうぶ、あなたならできます。 ほら、表情もぐっと明るくなりましたね。 笑顔きれいですよ」
若い絵里は素直な分、飲み込みが早かったので、100円玉の説明ですっかり理解できたようです。 笑顔の戻った彼女ははつらつとして見えました。
彼女は深々と頭を下げ、退室しようとしました。 するとそのとき、黒いベールの女性が呼び止めました。
「おっと絵里さん、その100円玉持ち帰って結構ですよ。 今度、性格のことでクヨクヨしてきたら、その100円玉を見つめてください。 表と裏、両方をね」
その日以来、何の変哲もないこの100円玉が、絵里のお守りがわりになっています。
~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!
ショッピングセンターの7階の片隅に、ひっそりとその相談室はありました。 なんでもたった100円で相談に乗ってくれるらしいのです。
今日も誰かが入っていったようですよ。 様子を見てみましょうか。
そこに入っていったのは、おとなしそうな女の子でした。 高校の制服を着ています。 女の子は常にうつむき加減でした。 お約束の100円玉をテーブルの上に置くよう指示された彼女は、高校生らしいかわいいお財布からお金を取り出して、テーブルの真ん中に置きました。
その後、相談内容を簡単に説明するようにと促され、彼女はゆっくり、考え考え、話し始めました。
「私の名前は〇〇絵里です。 今16歳で高校生です。 性格のことで悩んでいます。 私は人の言葉が気になってしまうんです。 ささいなことでも、言われたこと全部気になってしまうんです」
「たとえばですか? ええと、友達に”暗いね”といわれて落ち込みました。 部活をやってるのですが、先輩にも 元気がなさ過ぎる、もっと声を出すようにと注意されました。 わかってはいるんですけど、どうしても大きな声出せなくて」
「親からもいわれます。 妹はあんなにはつらつとしてるのに、なんであなたはウジウジしてるのって。 いったんそういうこといわれると、私ダメなんです。 よけい落ち込んじゃって」
「私ってなんてダメな人間だろうと思って。 食欲もなくなってきました。 友達みたいに明るくて、ものごとを気にしない性格になれたらと思います。 こんな性格でもなおるんでしょうか? 気にしない性格になる方法ありますでしょうか? もしよかったら、ぜひ教えてください」
相談を聞いているのは、占い師のような黒いベールをかぶった女性でした。 ベールがかかっているので表情は読めません。 ですが、声はとても柔らかで、やさしいのです。
彼女はそんな絵里にこう答えました。
「結論からいきましょうか。 絵里さんでしたね? あなたはだいじょうぶです。 心配には及びません。 あなたはとてもすばらしい方です」
「そんなけげんな顔をしなくてもいいんですよ。 あまりに唐突過ぎましたね。 順序良くお話しましょうか」
「あなたはすぐ気にする性格なんですよね。 人の言葉に敏感なんですね」
「でも、人の言葉に敏感だからこそ、絵里さん、あなたはお若いのに、自分が発する言葉にも大変、気を配ってらっしゃいますよね。 そう、今お話しになったようにです」
「人を傷つけるようなこと、決していいませんよね。 お友達にも、まわりの大人にも、言葉を選んで話してますよね」
「気にする性格だからこそ、気がついたこと、たくさんあるでしょう。 特にその、人への思いやりといいましょうか、言葉の使い方ですね。 その年でなかなか、できないことですよ」
絵里は今まで、性格のことで注意されたり、直せといわれたことは多々ありましたが、褒められたことはありませんでした。 それで、予想もしなかった言葉に心底、驚いてしまいました。
ベールの女性はさらに続けました。
「ここに、あなたの置いた100円玉がありますよね。 なんて書いてありますか?」
「そう 100という数字が書かれてますよね。 でも100円玉には裏面もありますよね。 はい、裏を返してみてください。 何がありますか? そう模様ですね」
「絵里さんはもしかしたら、100円玉の表か裏、どちらか一方ばかり見続けてきたのではないでしょうか」
「表を見続けていると、裏の模様のことなど想像もできなくなってしまう。 裏ばかり見ていると、表に何が書いてあったのかさえ忘れてしまう」
「性格も同じことなんですよ。 100円玉と同じなんです。 同じ性格にしても、表面もあれば裏面もある、いい部分もあれば悪い部分もあるのです」
「絵里さんは頭のいい方だから、もうおわかりになりましたね。 無理に生まれ持った性格を変えようとするのではなく、その性格のいいところも見てあげてください」
「だいじょうぶ、あなたならできます。 ほら、表情もぐっと明るくなりましたね。 笑顔きれいですよ」
若い絵里は素直な分、飲み込みが早かったので、100円玉の説明ですっかり理解できたようです。 笑顔の戻った彼女ははつらつとして見えました。
彼女は深々と頭を下げ、退室しようとしました。 するとそのとき、黒いベールの女性が呼び止めました。
「おっと絵里さん、その100円玉持ち帰って結構ですよ。 今度、性格のことでクヨクヨしてきたら、その100円玉を見つめてください。 表と裏、両方をね」
その日以来、何の変哲もないこの100円玉が、絵里のお守りがわりになっています。
~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!
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