心配性のための試写室(幸せになれるオリジナル小説)

心配性のための試写室


ある日曜の午後。 心配性で有名な男が、いつものように、心配事に頭を悩まされながら歩いていた。 ふと気づくと、まわりには見慣れない景色が。 どうやら道に迷ったらしい。

だが、道に迷ったこと以上に困惑したのは、目の前に飛び込んできた、ある看板の文字だった。 


『心配性のための試写室』


看板にはそう書かれていた。


彼は心配性を絵に描いたような男。 実は明日、会社でプレゼンをすることになっていたのだが、それが心配で心配でたまらなかった。 準備は万端なのだが、それでもヘマをしないか心配でならないのだ。

心配性の彼は用心深いタイプでもあるので、知らないところに足を踏み入れることなどしないのだが、なぜだかその日はすーっと、その看板のかかっている店に入っていってしまった。


そこは小さな小さな映画館のようなところだった。 人っこひとりいない。 スクリーンといくつかのイスが置いてあるだけ。 スクリーンにはこんなことが書いてあった。

「ようこそ、心配性のための試写室へ。 どうぞおかけになって、ゆっくりとご覧ください。 すべて無料です。 では、まもなく始まります」

えっ 始まるって何が? わけがわからないまま、彼はイスに腰掛けた。 すると・・・スクリーンに何かが映し出された。


それは、なんと小学生時代の彼の姿だった。 いったいどういうことだ? 彼はうろたえた。 だが質問する相手もいない。 映画らしきものは勝手に始まっていた。

転校の前の日。 心配で胸が張り裂けそうになっている彼。 それが映し出されている。 それを見た彼はすっかり思い出した。 あの日のことを。

「友達ができなかったらどうしよう。 いじめられたらどうしよう。 新しい学校の中で迷子になったらどうしよう」 


と、急に場面が変わり、転校一週間目の日の彼が映し出された。 笑顔の彼が、新しい友達と遊んでいる光景だった。 そこでまた彼は思い出した。

「そうだ。 お腹が痛くなるほど心配したけど、ちゃんと友達もできたし、校内で迷子になることもなかった。 けっこう楽しかったなぁ、あの学校」


スクリーンは次の場面へと変わっていった。 今度は現在の彼だ。 先月のプレゼンの光景が映し出されている。 つい最近のことだから、彼もよく覚えていた。

「そうだったなぁ。 先月も前の晩、心配し過ぎて胃薬を飲んだっけ。 心配で一睡もできなかったけど、まあまあ、うまくできたんだったな。 課長がほめてくれたっけ。 いっしょうけんめいさが伝わってきて感動したとまで、言ってくれたんだっけ」


先月のことを感慨深げに思い出していると、またまた、スクリーンは次の場面へと変わった。 

そこには見知らぬ、でも顔に見覚えのある、穏やかそうな老人が映っていた。 


誰だろう? どこかで見たような顔だ・・・ と、スクリーンの中の老人は、彼に向かって語りかけ始めた。

「やぁ 心配性のきみ。 映画はどうだったかな。 心配し続けてきた結果、どうだった? 結局、心配するほどのことでもなかったんじゃないかな。 心配性は決して悪いもんじゃないが、まぁ ほどほどがいいんじゃないかい」

男は不思議でならなかった。 この人誰かに似てる、誰かに・・・ 似てるどころかそっくりだ。 老人はそんな彼を見透かすように、にやりとした。

「私も心配性だったけどね、ある時、不思議な映画を見てね。 それ以来、少しだけど心配性が治ってきた。 今は楽しく暮らしとる。 今でもたまに心配はするが、ほどほどにしとるよ。 きっとうまくいくと信じているからね」


あっ! 男は声を上げた。 ついに、老人の正体がわかったのだ。

「気づいたかい、心配性のきみ。 そう、私は”きみ”だ。 未来の”きみ”だよ。 きみがあんまり心配性なものだから、なんとかしてやりたくなってね」

「若い頃の”私”、いや紛らわしいから、”きみ”と呼ぼうか。 いいかい、未来のきみは幸せに暮らしとる。 心配しなさんな。 未来の自分がいうんだから、こんな確かなことはないだろう?」


その晩、男は久しぶりに熟睡した。 翌日のプレゼンが大成功を収めたことを、一応つけ加えておくことにしよう。


~おしまい~


読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!


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Comment

二度目まして♪
なんだか とても暖かいお話です
変な話ですけど なんとなく星新一さんのショートショートを想い出しました
とても素敵なお話を 読ませていただきました

また お邪魔させていただきます
  • 2009/08/10 22:27
  • Rin...
  • URL
Rin さんへ
こんにちは。

ありがとうございます。 星新一さん なつかしいですね。
中学生の頃 よく読みました。

ところで事後報告ですみませんが、リンクさせていただいちゃいました。
もし不都合であれば、遠慮なくおっしゃってくださいね。
あと、Rinさんのお名前の 点々ってところ、ローマ字変換だと
どこ押していいかわからなくて。 点々なしのお名前で書いてしまって
すみません。 

また懲りずにいらしていただければ、ありがたいです。
うれしいです♪
シャイドリーマーさま

不都合だなんて とんでもない
リンクしてくださって うれしいです
こちらの方から リンクさせていただけませんかって
お願いしようかって 思っていたところでした
わたしの方こそ 事後になりましたけど リンクさせて
いただきました

偶然ですけど わたしも 初めて星新一さんの本を
読んだの中学生の頃でした♪

またお邪魔させていただきます<(_ _)>
  • 2009/08/11 18:13
  • Rin...
  • URL
Rinさんへ
こんばんは。

よかった。 リンクこれで両思いですね。
私もとても助かります。 ありがとうございます。

星新一さんの本は、中学生に人気なのかな。
楽しかったですよね、意外な展開とか。
なつかしく思い出しました(すごく古い話なのに)

また、こちらこそよろしくお願いしますね~。
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