2009.07.23

過去のない画家(幸せになれるオリジナル小説)

過去のない画家

おや、この絵がお気に召しましたか。 お目が高い。 残念ながら、この絵だけはお売りできないんですよ。 この画家ですか? まだやっと30の青年ですよ。 今武者修行にヨーロッパに行っております。 ある資産家の目に止まり養子になりましてね。 それで好きなだけ、あちらにいていいということになりまして。

運がいいって? 確かに今は幸せに暮らしてますが、むかしは・・・ よかったら、差しさわりのない程度にお話しましょうか。 あなただから話しますが、他言せぬように願いますよ。

この青年には”過去”がないのです。 いや正確にいうと、過去のことを一切覚えていないのです。 自分の名前も、年も、職業も、何も覚えてないのです。 そう、記憶喪失ってやつですね。

もう何年も前のこと、青年は都会の片隅の小さな公園で、倒れているところを発見されました。 血を流していたんです。 病院に運ばれ、すぐさま治療が行われました。 青年は意識を取り戻しましたが、すっかり記憶を失っていたのです。

ところがひょんなことから、青年の身元がわかりましてね。 たまたま同じ病棟に入院していた患者が同郷だったのです。 病院から連絡をもらった彼の母親は、病院にお金を送ってきてくれました。 ただ、お金だけだったそうです。 会いに来てくれることもなければ、青年に電話をかけてくることもなかったそうです。 それで青年は不安になりました。 自分は一体どんな人間だったのだろうと。

若い彼はあっという間に体力が戻り(記憶は戻らなかったのですが)退院することができました。 母親に電話しても出ないため、仕方なく訪ねていくことにしました。 青年の故郷は人里はなれた山間の小さな町でした。 

故郷に着いても何ひとつ記憶のない彼は、勇気を奮い起こして実家の戸を叩きました。 ところが・・・

出てきた母親は青ざめた顔で青年を見上げ、中に入れてくれるどころか、誰にも見られないように注意しながら、彼を外に連れ出してしまいました。 ほんの15分ほどの滞在で、青年は肩を落として故郷を去りました。

詳しいことは話してもらえませんでしたが、この15分間で大体のことはわかりました。 青年は10代の終わりに家を出ていった。 その後は、数年ごとにお金をせびりに戻ってきていた。 母親は再婚し(彼の実父は幼い頃、出て行ったらしいのです)新しい家族と静かに暮らしている。 青年には迷惑をかけられ続けてきた。 顔も見たくない、二度と来ないでほしい。

青年がショックを受けたことはいうまでもありません。 実の母親が二度と会いたくないというほど、ひどいことをしてきたのだろうか。 自分はどこで何をしてきたのだろう。 名前も年もわかったが、過去のことがわからない。 自分のしてきたことなのに、何もわからないのです。

長くなりましたね。 少しはしょりましょう。 その後どうやって立ち直り、画家となったのか。 あなたはそれを知りたいのでしょう。 ”捨てる神ありゃ拾う神あり”といいますよね。 あることから、青年は資産家と知り合いになったのです。 そのいきさつは長くなるので、また今度にしましょう。

とにかく資産家と知り合ったことで、彼の人生がまた変わり始めたのです。 資産家は彼にとって父親のような存在でした。 彼の画家としての才能を見つけ出したばかりでなく、心の治療もしてくれたのです。 癒してくれたのです。

そこで資産家の教えた、幸せのコツをあなたにも伝授しましょう。

☆ 過去を悔やんで苦しみ続ける必要はない
☆ 未来は、今の自分次第で変えられる
☆ どんな人でも幸せになっていい


青年の過去は、明るいものではなかったでしょう。 すさんだ人生を歩んできたようですからね。 でも、青年の生きているのは ”今”であり、過去ではない。 人は皆、過去ではなく、今を生きているのですから。 終わってしまった過去でも、まだ来ぬ未来でもなく、今を生きているのですから。

ヨーロッパ留学の贈り物をもらった彼は、最初は受け取っていいものか迷っていたそうです。

「自分なんかがいいんでしょうか? よくない人生を送ってきた自分が。 もちろん覚えてはないですが、やったことは消えませんから」 

資産家の答えはこうでした。

「きみは過去をほじくり出して生きていくのかい? それともよりよい未来をつくるため、最高の”今”を生きていくのか。 どちらでも好きな方を選ぶといいよ」

私の話はこれでおしまいです。 それにしてもいいでしょう、この絵。 

えっ青年が帰国したら会いたいって? そうですね、息子が帰国したら連絡するようにいたしましょう。 あっ おわかりになりましたか。 そうです、彼は私の息子なんです。 数年前に養子にしましてね。

いい子ですよ。 ええ、ええ、今度かならず紹介いたします。 


~おしまい~


読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!


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シャイさん再びこんばんは♪
過去ではなく今を生きている…。
そうですよね。私も過去に縛られている部分があるのでとても心に響きました。
未来に進まなければいけませんね。過去は過去、思い出や教訓にはしてもいいかもしれないけど見据えるのは未来でなければいけないのでしょうね。
「あの頃」には戻れないのですものね!
Posted by 紫桜 凛 at 2009.07.28 00:46 | 編集
こんばんわ。
なんか考えさせられました、この話。
過去は変えられません。どんなに悪いことをしても悔やんでも消えるモノではないですから…。
生きてるからには、まだ見ぬ未来にむかってすすみたいですね、今までの過去の経験も一緒に持って!
途中で何度も何度も立ち止まり引き替えそうとする事もあると思いますが‥。
Posted by sugar salt at 2009.07.28 01:10 | 編集
再び こんにちは♪

そうですね、過去は思い出や教訓にはできますね。
人は学んで進む生き物だから。
見据えるのは 未来。 すばらしい。
さすが いいこと仰いますね。
Posted by シャイドリーマーより 紫桜 凛さんへ at 2009.07.28 10:09 | 編集
こんにちは。

そうなんですよね、過去は残念ながら変えられないですよね。
今までの過去の経験は、今後いい方向に動いていくために
一緒に持っていくのは、”学び”だからいいことですね。
必要以上に悔やむのは逆効果なので
基本は いい未来を創るための ”今”が大事ということを
踏まえておくのがコツかな・・・
Posted by シャイドリーマーより sugar saltさんへ at 2009.07.28 10:15 | 編集
シャイさん、こんばんは!シャイさんのショートショートは、いつも前向きでいいお話ですね! いい出逢いも大切ですね。神様ってホントにいるような気がする今日この頃です。
Posted by ユカリ at 2009.07.28 22:19 | 編集
こんばんは。

ユカリさんが遊びに来てくれると、なんだかほっとします。
いつも ありがとう。
ショートショートは詩と違って読むのに疲れると思いますが
読んでくださってうれしいです。
神様はいるんだって思って生きる方が、なんか楽しいですよね。
だから私は信じることにします♪
Posted by シャイドリーマーより ユカリさんへ at 2009.07.28 22:57 | 編集
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