世界一幸せなおばあさん (幸せになれるオリジナル小説)
ある老人ホームの日当たりのいいバルコニーに、取材を受けてお話ししている、穏やかなおばあさんがいました。
なんでも、そのおばあさんは『世界一幸せなおばあさん』といわれているそうなんです。
こっそり、おばあさんのお話を聞いてみましょう。
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まず私の少女時代からお話した方がいいかも知れませんね。 物心ついたときから、私には親がいなかったんですよ。 気がつくと、私は祖父母に育てられてたんです。
小さな頃はね、親がいないことでいじめられたこともあるんですよ。 ある日、いじめられて泣きながら帰ってきた私は、ついに祖母にいじめられた理由を言ってしまいました。
すると祖母は穏やかにこう言ったんです。
「泣く事はなにもないのよ。 あなたは世界一幸せな女の子なんだから」
「どうして私が? もしそうながら、なぜ私にはお父さんもお母さんも兄弟もいないの?」
すると祖母は私の顔をじっと見て、こう言いました。
「親がいなくても、あなたには私たちがいるでしょう。 私はね、こう見えても幸せのコツを知ってるおばあちゃんなのよ。 だから世界一幸せなおばあちゃんなの。 そんなおばあちゃんに育てられてるあなたは、世界一幸せな女の子に決まってるじゃない」
なんだかキツネにつままれたような? 私はさらに祖母に聞きました。
「幸せのコツを知ってるなら私にも教えて。 お願い!」
祖母はにっこり微笑むと、こう答えたんですよ。
「教えるのは簡単だけど、一番いい方法があるよ。 それはね、これから大きくなるまでずっと、私のやり方を見ていくこと。 観察していくことよ」
その日から、私は祖母を観察し続けました。 どんな風に考えどんな風に話し、どんな風に行動するのか。
そうすると・・・
だんだん、祖母のやり方がわかってきたんです。
えっ あなたも知りたいって? まあ、そう急がなくていいですよ。 だんだんわかりますから。
中高生の頃、私はのんびりしてるように見えたのか、時々きつい性格の友達から、いじわるされたりしてたんです。 でもね、だいじょうぶでしたよ、祖母を観察してきて学んだから。
まず、私は決していじわるな子たちを憎みませんでした。 心の中でも、ひどい言葉を発しませんでした。
なぜ?
私が究極のお人よしだったからってわけじゃありません。 言葉にはね、力があるからです。 ひどい言葉を発せば、ひどい言葉がブーメランのように返ってくるからです。
自分のところにですよ。 相手がどんなに悪くても関係ありません。 誰でもない、自分のところに返ってきちゃうんですよ。
ではどうしたらいいか。
私は祖母の方法を取りました。
どんなに悪魔のような行動をしても本質は愛。 愛をしばし忘れてしまっている気の毒な人たち。 だから祈りました。
いじわるをされればされるほど、愛を思い出すことができますようにって祈りました。
それだけです。 祈ったらそれで私の役割は終了。 あとはその人が愛を取り戻せても、取り戻せなくても、その人次第ということになります。
不思議なんですけどねぇ、人を憎むじゃないですか。 それって自分を憎むのと同じことなんですよね。
そうそう、もっと駆け足で先に進みましょうか。
私は20歳の時、ある男性と恋に落ちましてね。 そして身ごもったんです。 結婚の約束をしていました。 ところが、男性がほかの女性と逃げちゃったんですよ。
この時ばかりは泣きましたね。 この頃はまだ祖母が生きていました。 かなり、よぼよぼでしたけどね。 祖母にこのことを知らせるのはとても辛かったですよ。
ところが祖母はにっこりしてこう言ったんです。
「だいじょうぶ。 あなたは世界一幸せな母親になるわ」
そうしてね、本当にそうなったんです。
幸い、ある知人が店をやっていまして、子どもを育てながら働けるように計らってくれたんです。 ね、私って本当に幸せでしょう!
ところが店員たちにヤキモチ焼かれましてねえ、随分 いじめられましたよ。 でもね、かわいそうな人たちなの。 いじわるしてるときって、すごく人相が悪くなるのよ。
鏡を差し出したらわかるかな?
前にも言ったように、いじめられるたび、私は祈りました。 愛を取り戻せますように!ってね。 やったことはそれだけよ。 他にエネルギーを使う必要はないもの。
ところでね、私のかわいい坊やのことなんだけど、障害があったんですね。 普通の学校には行けなかったんですよ。
でもね!
私は世界一幸せな母親だったんです。 祖母も言ってましたしねえ。
この子はとびっきりの天使だったんです。 親ばかといわれても構わない、だって本当のことだから。
私の坊やは誰よりも澄んだ瞳を持ち、誰よりも美しい笑顔の持ち主でした。 とうとう、たどたどしいしゃべり方しかできなかったけれど、心がきれいだったから、いつも天使の顔をしてたのよ。
私を毎日癒してくれた。 こんな親孝行っていないでしょう?
本当に幸せでしたよ。
坊やは成人する直前に、天へと帰っていきました。
本当いうと、今度こそ落ち込んでしまって。 これから何を支えに生きていけばいいのだろうって。 その時が一番時間かかりましたよ。
でもね、私とことん幸福なのね!
祖母の言葉が思い出されたんです。 「あなたは世界一幸せ・・・」そう、祖母が嘘をいうはずないんですもの。
今まで辛かったこと、結局いいことに繋がった。 それって私が世界一幸せだからじゃないかしら? そう思ったんですね。
坊やは天にいます。 いなくなったわけじゃなくて、天にいるんです。 神様と一緒だから寂しくないの。
私もいずれは天に行きます。 久々に会うとうれしさが増すでしょう? 今から楽しみですよ。
私はね、世界一幸せなおばあさんです。
老人ホームに入って訪ねてくる人もいないのにって? とんでもない!
ちょうどあなたたち取材の方々のように、こんな私に興味を示してくれる人たちが現われてね。 不思議と次々いらっしゃるんです。
私の話をしてほしいって。
こんな話、おもしろくもないのにね。
私が話すと喜んでくれるの。 感謝してくれるんです。 喜んでもらえる。 感謝してもらえる。 こんな幸せなことはないんですよ。
私には口があり話すことができる。 皆さんには耳があり話を聞くことができる。 幸せですね。
私の歳? いくつに見えますか? もうじき95歳よ。 若く見えるでしょう!
長生きですねって? もちろん!
だって私は、世界一幸せなおばあさんですもの。
今日は私のお話、聞きに来てくれてありがとう。
~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!