羨ましがりやの さっちゃん(幸せになれるオリジナル小説)
ある町に、人一倍羨ましがりやの女の子が住んでいました。 その女の子、さっちゃんはいつも誰かを羨ましがっていました。
いいな。 〇〇ちゃんはいいな。 うらやましいなぁ! これが口ぐせ。 そのたびにお母さんに
「人は人、さっちゃんはさっちゃんでしょ。 羨ましがってたってどうにもならないでしょう」
と諭されていたのですが、効き目はまるでなし。 さっちゃんには、まわりの友達のほとんどが、自分よりしあわせに見えてしまうのです。
特に、同じクラスのレナちゃん。 この子はさっちゃんがもっとも羨ましがる女の子のひとり。 なぜなら、レナちゃんのお家はものすごく大きくて、きれいだからです。
レナちゃんのお父さんは、どこか大きな会社の社長さんで、お母さんもモデルさんみたいにきれいな人。 レナちゃんはなんでも好きなもの買ってもらえて、かわいい服を着ていて、いつも幸せそうな顔をしています。
さっちゃんはそんなレナちゃんが、羨ましくて仕方ないのでした。
もう一人、羨ましくてたまらない子がいます。 児童館で知り合った、隣町の女の子のトモちゃんです。 トモちゃんは、レナちゃんのようなお金持ちの子ではなさそうですが、色白でとてもかわいい顔をしているのです。
だから男の子に人気があります。 また、いつもニコニコして明るいので、女の子たちにも好かれています。 つまり、誰からも好かれているのです。
ある日のこと。 その日のさっちゃんは一人で留守番をしていました。 もう4年生なので、留守番くらいはできるんですね。 うるさいお母さんがいなくて、さっちゃんは羽を伸ばしてゆっくりしていました。
ひとりでお気に入りのアニメを見ようと、DVDの再生ボタンを押すと・・・
なんと見知らぬ男が画面いっぱいに現れたではありませんか。 驚くさっちゃんに、間髪を入れず、その男は一方的に話し始めました。
「羨ましがりやの さっちゃん、こんにちは。 これから、あなただけに取っておきの映像をお見せします。 お友達のヒミツ映像です。 一回しかお見せできないので、よく見ててくださいね」
そう言ったかと思うと、男は消え、そのかわり見覚えのある顔が映し出されました。 それは・・・
さっちゃんが誰よりも羨ましいと思っていたレナちゃんでした。
どうやら、レナちゃんのお家の中が隠し撮りされているようです。 いいのかな? こんなの見ちゃって。 そう思いながらも、さっちゃんは食い入るように画面を見つめてしまいました。
よく見ると、レナちゃんはしくしく泣いていました。 そのそばで大人たちの怒鳴り声がしています。 カメラが引いていくと、今度はその大人たちが映し出されました。
レナちゃんのお父さんとお母さんでした。 お金持ちで上品そうなレナちゃんの両親が、顔を真っ赤にして怒鳴りあっています。 ケンカしているのです。
と、レナちゃんの声が聞こえました。
「いつもケンカばっかり。 レナ、こんなお家、もうイヤだ!」
さっちゃんは唖然としました。 レナちゃんはお金持ちの子で、いつもほしいもの買ってもらえて、海外旅行にも連れてってもらえて、いい服いっぱい持っていて・・・
いいことだらけだと思っていたのに。 いつもお父さんとお母さんがケンカしてたの? あんな風に怒鳴りあってたの?
・・・と、今度は別の映像が映し出されました。 今度は、児童館の人気者、トモちゃんです。 学校のお友達じゃないので、トモちゃんのことはよく知らなかったのですが、どうやら映っているのはトモちゃんとお母さんのようです。
トモちゃんはお母さんに薬をもらって、飲むところでした。 トモちゃんの顔はいつも以上に白く、とても弱々しそうに見えます。
お母さんが何か言っています。 トモちゃんに言い聞かせているようです。
「トモちゃん、今日は児童館は無理ね。 またよくなったらにしましょう。 去年のように入院になったら大変だからね。 お薬飲んで寝てましょう」
するとトモちゃんは
「学校では、みんなわたしの病気のこと知ってるけど、児童館では誰も知らないの。 あそこに行くと元気で明るい子になった気がして、とっても楽しいのになぁ」
「病気 治るのかな。 みんなみたいに元気になれる日が来るのかなあ」
さっちゃんが驚いたのはいうまでもありません。 病気のこと、全然知らなかったのです。 てっきり、トモちゃんは幸せで元気な子だとばかり、思っていたのでした。
その日以来、さっちゃんは、羨ましがりやの汚名を返上して、友達のことをむやみに羨ましがらなくなりました。 すると不思議なもので、自分自身のことが少し好きになってきたのです。
わたしだって、まあまあ幸せ、ううん、まあまあじゃなくて、とっても幸せとさっちゃんは思っています。
さっちゃんはもはや羨ましがりませんが、そのかわり、別の習慣が身につきました。 それは、こんな習慣です。 寝る前に、さっちゃんは手を合わせます。 そして、こう呟きます。
「今日もぶじに過ごせました。 ありがとうございます。 わたしとわたしの家族が明日も幸せでいられますように」
「レナちゃんのお父さんとお母さんがケンカしなくなりますように。 レナちゃんが泣かなくてすむようになりますように」
「トモちゃんの病気が治りますように。 元気になって児童館に来れるようになりますように」
「よくばりなお願いですみませんが、できれば世界中の人たちがみーんな幸せになれますように」
「大好きな、やさしい神様、よろしくおねがいします!」
~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、こちらもどうぞ!