悩み・買い取ります世の中には不思議な商売があるもんです。 たとえばこの私、地味ながらもコツコツとビジネスをしております。 こんな時代ですが、お客様は絶えないんですよ。
その理由は・・・
私のしているビジネスというのは、お客様の悩みを買い取るというものです。 具体的な例で説明しましょうか?
ある日のこと、まだ若い女性のお客様がお見えになりました。 かわいらしい方でしたが、悩み続けたため、顔色も悪くやせ細っていました。
彼女は私に聞きました。
「悩みを買い取ってくれるって本当ですか? それならぜひ、買い取っていただきたい悩みがあるんです!」
彼女の悩みとは? それは最近、一番多いパターンでしてね。 職場での人間関係ってやつです。 彼女は同じ部署のAさん、Bさんにいじめられていたのです。
相手は年上で先輩たち。 何も太刀打ちできなかったんですね。 子どものいじめもそうですが、職場でのいじめも陰湿です。 彼女はすっかり参っていました。
私は喜んでその悩みを買い取ることにしました。 もちろんお金はいただきましたよ。 いくらかって? それはこちらに来て頂ければ、料金表をお見せしますよ。
彼女の悩みを買い取ってから一週間が過ぎました。 また彼女が来店しましてね。 今日は、その後の報告にみえたのです。
彼女は開口一番
「困ります! あんな方法じゃ」
と少し興奮しています。
「何かお気に召さないことでも?」
「AさんもBさんも突然、謎の病気にかかり入院してしまいました。 それってあれのせいですよね? 買い取ってもらったせいですよね? あんな方法じゃ私のせいみたいで、気持ち悪いです。 ああいうのルール違反ですよ」
「でも悩みは消えましたでしょう? 当の本人たちがいないのですから。 あの人たちは帰って来ませんから、もう悩まされることもないですよ」
それでも彼女は嫌だといい張ります。 たまにこういうお客様、いらっしゃるんですよ。 やり方が気に食わないとか、難癖をつけてくるのです。
「では仕方ない、今度はこの悩みを買い取りましょうか? つまり、入院している二人のために罪悪感にかられてしまってるわけですから、それを解消すればいいんですよね」
このお嬢さんは、思ったより賢い方だったようです。 すかさず彼女はこういってきました。
「でも・・・ふたりが戻ってきたら、また同じことですよね。 またいじめられるんだわ。 他の方法はないんですか? 誰も傷つけないような。 たとえばふたりが遠いところに引っ越してしまうとか」
「方法自体を変える場合は、別料金になるんですよ。 これはおすすめしません。 一番下のプランでも300万円以上しますからね」
彼女はため息をつきました。 しばらく考えてましたたが、やがて決心したように口を開きました。
「300万も払えないし、かといって、今の方法はガマンできません。 ふたりの病気を今すぐ治してください。 退院させてください」
「わかりました。 では、今おっしゃった悩みを買い取ることにしましょう。 今回は千円だけいただきます」
さらに一週間が過ぎました。 そう、あの彼女がまたやって来ました。 でもね、私にはわかっていましたよ。 また報告に来るってことが。
彼女の顔は前とちがってすっきりしていました。 どこか生き生きしていました。
「おかげさまで、いろいろなことが学べました! ありがとうございました」
彼女はうれしそうに報告をしてくれました。 そして満足そうな表情で帰っていかれました。
えっ 彼女の報告の内容を知りたいって? そりゃあ そうですよね。 では、かいつまんでお話しましょう。 彼女の言葉をそのまま引用しますね。
「あれから出社すると、AさんBさんはあっという間に退院し、会社に戻ってきました。 がっかりするとともにほっとしました。 でもやっぱり、健康になった人間を見るのは嬉しいものです。 今までは、二人の前では下ばかり見ていましたが、思い切って明るく挨拶してみました」
「ふたりの様子が変わっただろうって? いえ、それが・・・最初だけですねぇ。 根っからあの二人はイジワルなのかも」
「でもいいんです。 大切なことに気づいたから」
以下が、彼女の気づいたことです。 書き出してみますね。
☆ その悩みを排除しても、自分のとらえ方・考え方を変えない限り、また似たような悩みがやって来る
☆ 悩むことが悪いのではなく、その悩みといかになかよく共存していくかが大事
☆ 悩みは次の幸せへのステップになるから、気にしすぎないこと
☆ だいじょうぶ、だいじょうぶ! 悩みがあってもだいじょうぶ!~おしまい~
読んでくれてありがとう。 他のお話も読みたいという方は、
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