AC(アダルトチルドレン)で悩んできた私が、自分なりに導きだした 癒しの言葉(ヒーリング・エッセイ+ヒーリング・ポエム) お役に立てるかわかりませんが、心を込めて一生懸命書くことを誓います
心配性のための試写室(幸せになれるオリジナル小説)
2009年08月23日 (日) | 編集 |
心配性のための試写室


ある日曜の午後。 心配性で有名な男が、いつものように、心配事に頭を悩まされながら歩いていた。 ふと気づくと、まわりには見慣れない景色が。 どうやら道に迷ったらしい。

だが、道に迷ったこと以上に困惑したのは、目の前に飛び込んできた、ある看板の文字だった。 


『心配性のための試写室』


看板にはそう書かれていた。


彼は心配性を絵に描いたような男。 実は明日、会社でプレゼンをすることになっていたのだが、それが心配で心配でたまらなかった。 準備は万端なのだが、それでもヘマをしないか心配でならないのだ。

心配性の彼は用心深いタイプでもあるので、知らないところに足を踏み入れることなどしないのだが、なぜだかその日はすーっと、その看板のかかっている店に入っていってしまった。


そこは小さな小さな映画館のようなところだった。 人っこひとりいない。 スクリーンといくつかのイスが置いてあるだけ。 スクリーンにはこんなことが書いてあった。

「ようこそ、心配性のための試写室へ。 どうぞおかけになって、ゆっくりとご覧ください。 すべて無料です。 では、まもなく始まります」

えっ 始まるって何が? わけがわからないまま、彼はイスに腰掛けた。 すると・・・スクリーンに何かが映し出された。


それは、なんと小学生時代の彼の姿だった。 いったいどういうことだ? 彼はうろたえた。 だが質問する相手もいない。 映画らしきものは勝手に始まっていた。

転校の前の日。 心配で胸が張り裂けそうになっている彼。 それが映し出されている。 それを見た彼はすっかり思い出した。 あの日のことを。

「友達ができなかったらどうしよう。 いじめられたらどうしよう。 新しい学校の中で迷子になったらどうしよう」 


と、急に場面が変わり、転校一週間目の日の彼が映し出された。 笑顔の彼が、新しい友達と遊んでいる光景だった。 そこでまた彼は思い出した。

「そうだ。 お腹が痛くなるほど心配したけど、ちゃんと友達もできたし、校内で迷子になることもなかった。 けっこう楽しかったなぁ、あの学校」


スクリーンは次の場面へと変わっていった。 今度は現在の彼だ。 先月のプレゼンの光景が映し出されている。 つい最近のことだから、彼もよく覚えていた。

「そうだったなぁ。 先月も前の晩、心配し過ぎて胃薬を飲んだっけ。 心配で一睡もできなかったけど、まあまあ、うまくできたんだったな。 課長がほめてくれたっけ。 いっしょうけんめいさが伝わってきて感動したとまで、言ってくれたんだっけ」


先月のことを感慨深げに思い出していると、またまた、スクリーンは次の場面へと変わった。 

そこには見知らぬ、でも顔に見覚えのある、穏やかそうな老人が映っていた。 


誰だろう? どこかで見たような顔だ・・・ と、スクリーンの中の老人は、彼に向かって語りかけ始めた。

「やぁ 心配性のきみ。 映画はどうだったかな。 心配し続けてきた結果、どうだった? 結局、心配するほどのことでもなかったんじゃないかな。 心配性は決して悪いもんじゃないが、まぁ ほどほどがいいんじゃないかい」

男は不思議でならなかった。 この人誰かに似てる、誰かに・・・ 似てるどころかそっくりだ。 老人はそんな彼を見透かすように、にやりとした。

「私も心配性だったけどね、ある時、不思議な映画を見てね。 それ以来、少しだけど心配性が治ってきた。 今は楽しく暮らしとる。 今でもたまに心配はするが、ほどほどにしとるよ。 きっとうまくいくと信じているからね」


あっ! 男は声を上げた。 ついに、老人の正体がわかったのだ。

「気づいたかい、心配性のきみ。 そう、私は”きみ”だ。 未来の”きみ”だよ。 きみがあんまり心配性なものだから、なんとかしてやりたくなってね」

「若い頃の”私”、いや紛らわしいから、”きみ”と呼ぼうか。 いいかい、未来のきみは幸せに暮らしとる。 心配しなさんな。 未来の自分がいうんだから、こんな確かなことはないだろう?」


その晩、男は久しぶりに熟睡した。 翌日のプレゼンが大成功を収めたことを、一応つけ加えておくことにしよう。


~おしまい~


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実感
2009年08月13日 (木) | 編集 |

ごっくんごっくん
お水を飲む

この感覚
この感動

生きてるって
こういうことかな





ある住職(幸せになれるオリジナル小説)
2009年08月13日 (木) | 編集 |
ある住職


その小さなお寺は、森を深く深く入っていったところにありました。 目立たないので気づく人は少ないのですが、”どんな悩みも聞いてくれる住職”がいるということでクチコミで伝わり、今では訪れる人の絶えないお寺になっています。

その日も、ある男がお寺を訪ねて来ました。 

40歳くらいの痩せた男で、顔は青白くうっすら無精髭を生やしていまして、見た目からもいかに悩んでいるかわかるほどでした。 男が門のチャイムで用件を知らせると、住職の奥さんが出てきました。 奥さんに促され、男はお寺の中の一室に入っていきました。

「すみませんね、住職は今忙しくて。 手があいたら参りますので、少しお待ちになっていただけますか」

男は静かにうなずきました。 まもなく奥さんがお茶を持ってきてくれました。 男はお茶をいただくこともなく、緊張の面持ちで待っていました。

と、5分後。  住職が現れました。  

想像していたより、随分とお年寄りです。 一昔前の物のような、古びた袈裟を身にまとっている住職は、優雅に静かに向かい側のイスに腰掛けました。



状況を説明するよう求められた男は、考え考え、説明を始めました。 それはおおよそ、次のような内容でした。

・・・男は隣県に住む40歳の会社員。 実は数ヶ月前、過労とストレスから心の病気になり、会社を休職している。 今は投薬治療中。 一頃よりは落ち着いてきたが、今もまだ不安感から抜けられず、医者から職場復帰OKの許可をもらえてない。 また本人も復帰する自信がない。

・・・男は妻と二人暮らし。 幸い、妻は某役所勤めであり、収入も地位も安定している。 経済的にはどうにか暮らしていけるのだが、最近、妻の態度に傷つけられている。 心の病気に対し全く理解がないのだ。 

・・・昨日、決定的なことが起きた。 少し気分がよかったので、帰ってくる妻をねぎらおうと料理の腕をふるった彼。 ところが帰ってきた妻は、急に機嫌が悪くなった。 

「ちょっと。 こんなに凝った料理ができるくらい元気なら働けるんじゃないの?」

さらに妻はエスカレートして

「大体、心の病気なんて言い訳なのよ。 仕事なんて誰でも好きでやってるわけじゃない、みんな我慢してやってるのに。 あなたはガマンってことができないのよ。 病は気からっていうでしょう」

「近所の人にだって体裁が悪いわ。 お宅のご主人、毎日家にいるのねなんて嫌味を言われてるのよ。 あなたが具合が悪いってグタグタ寝てるとき、私は仕事も家事も両方やってるのよ」

「しっかりしてよ、もっとがんばれないの?」

・・・これだけは言ってほしくないことだった。 ”しっかりしろ” ”がんばれ” これが一番きついセリフだった。 男はこれでも、がんばってきたのだ。 自分のキャパシティ以上に。

・・・男はふらふらと立ち上がり、妻の声を背にして自分の部屋にこもってしまった。 



住職は途中、口をはさむこともなく、うんうんとうなずきながら聞いていました。 そして穏やかな笑顔で、男にこういいました。

「それはつらかったね。 この部屋にはきみと私、ふたりだけだ。 他言することもないから、この際、奥さんに対して思っていることをぶちまけてみたらどうかな」

「えっ それはちょっと・・・彼女の悪口をいうことになってしまいます」

「だいじょうぶ。 ほんの少しの間なら誰も責めやしないよ」

男の名誉のためにいっておきますが、彼はだれかれ構わず、悪口をいうような人間ではありません。 ただこのときばかりは、もうガマンができなくて、吐き出さずにいられなかったのです。



そこで、男は思い切って話し始めました。

「妻はきつ過ぎるんです。 言葉にトゲがあります。 なんでも思ったこと、すぐ口にしてしまうんです。 今までも、彼女の言葉にどれだけ傷ついてきたか。 確かに優秀でしっかり者ですが、弱者を全く理解しません。 思いやりに欠けるんです」

「妻の仕事もそれは大変な部分もあるでしょう。 でも少なくとも定時には上がれるんですよ。 私は病気になる前、毎日 遅くまで残業してまして、やってもやっても仕事が出てきて。 ほんとに疲れてました。 なのに妻は、仕事はなんでも一緒、あなただけが疲れてるわけじゃないというんですよ」

「それに勝ち負けにこだわり過ぎます。 私のことを人生の敗者だと思ってるんです。 妻は気が強くて人に厳しすぎます。 いつも自分が正しいと思ってるんです。 人を上から見てるんです」

「私も、これでもよくなってきた方なんです。 病気がMAXの時はこんな風にしゃべる気力もなく、何もできず、生きているのが辛くて・・・ なのに妻は全く理解がないんです」



男はしゃべり疲れたのか、急に話をやめてしまいました。 空を見つめるように、ぼーっとしています。

「なるほど、なるほど。 それはつらいねぇ。 奥様ときみとは性格が違うんだね」

と住職。 

「全く違います。 正反対といってもいいくらいです」



男が答えると、住職はまた微笑を浮かべながら、今度はこんなことをいうのでした。

「それでは別の方面も考えてみようか。 奥さんのいいところはどんなところかな? 過去のことでもいいから、何かあったら一つ聞かせてくれないか」



いいところ? そう言われてもすぐには思いつきません。 ここ数ヶ月、妻の嫌なところばかり目にしてきたのですから。 男はしばらく、じぃっと考え込んでいましたが、やがて思い出したように語りだしました。

「そうですね・・・今はこんな状態ですが、結婚当初は、明るくて大きな声で笑う子で、そんなところが大好きでした。 私にはないところですから」

「妻はとにかくしっかりしてて、頭がよくて。 私が病気になるまでは、ふたりでよく休日にドライブに行ってましたね。 妻が大きなおにぎりを作ってくれて。 彼女のおにぎりは何しろ大きいんです」

「お人よしですぐ人に物をあげてしまったり。 やたらと親切だったり。 困ってる人を見ると助けずにはいられない。 やさしい部分も確かにあるんですけどね」

「なんでもいっしょうけんめいやるところも、いいところですね。 私は彼女の笑顔が大好きなんですよ。 笑顔が一番きれいだから」



今度は住職の出番です。 住職はお茶を一杯すすったかと思うと、静かに穏やかに話をしました。

「なるほど。 すばらしい奥さんだ。 ただきみと違って歯に衣着せぬ性格のようだね」

「人は、わかってもらえないと思うと苦しくなるものだ。 家族だから当然、理解してもらえるものと思っているが、実際はどうだろう。 皆、考え方も性格も違うんだね。 わかってもらえたらうれしいが、わかってもらえなくてもそれも自然なことなんだね」

「奥さんが心の病気のこと、理解してくれないとしても、それは奥さんのせいじゃないよ、そして、きみのせいでもないよ」

「どちらも悪くない。 夫婦ってのは、違う二人が一緒に生活するってことだから、まあいろいろあるんだね」

「なぜ違う二人が一緒になるのかって? いい質問だ。 夫婦とは限らない、家族もそうだよ。 大抵、性格 違うよね。 でも、違うからいいんだ。 全く同じだったら刺激もない。 違うから、学びあえるのだよ」



住職はもう一度お茶をすすりました。

「きみもどうだい。 おいしいよ。 えっ? 言いたいことがあるのかな? いいよ、言ってごらん」



すると男は

「いろいろ言いましたが、妻に感謝してることには違いありません。 きついことを言われるのは確かにつらいけど、ただ感謝だけはしてます」



住職はにっこりしました。

「ほう、すばらしいね。 ではいつか、それを本人に示すといいね」

「それが・・・最近の妻はあんなですから、そんな雰囲気じゃないんです。 とてもじゃないけどいえません」

住職はまた微笑みました。

「そうだろうか。 案外チャンスはすぐめぐってくると思うがね」



不思議なことに、住職に話を聞いてもらっているうち、また、今まで誰にも言えなかった胸の内を吐き出しているうち、気持ちが軽くなっていったことに男は気づいていました。

と、住職は時計に目をやり立ち上がりました。

「すまんね、時間がなくて。 申し訳ないけど、これで失礼するよ。 今 家内が来るから、少し待っててくれるかな」




・・・ここまで長い間、読んでくれてありがとうございます。 

と、ここからがちょっと不思議なお話なのですが、住職が出て行った直後、なんと別の住職が現れたのです。 もう少し若い感じの人でした。



その住職はいいました。

「お待たせしました。 前の仕事が押してしまって・・・」

男は驚いて思わず、いいました。

「えっ、でも、お年寄りの住職さんに今まで聞いていただいてたんですが、あれは一体?」



すると住職は

「そうですか、現われましたか。 よくあることなんですよ。 誰なのかって? それは・・・多分、そのうちわかるでしょう。 でも解決したのでしたら、私はこれで失礼しますよ」




もう少し続き、お話しましょうね。

その後、男は家に帰り、相変わらずの態度の妻と夕食の席に着きました。 そこで彼はこんなことをいったのです。

「いつも、すまないね。 でも、ありがとう。 いつも、ありがとう」

妻が驚いたのはいうまでもありません。



一ヵ月後。

男は今も休職中ではありますが、少しずつエネルギーが戻ってきているようです。 笑顔を見せる日が多くなってきました。 そして素直に、妻に感謝できるようになりました。

妻も、男への態度がやわらいできました。 それどころか、男への気づかいの言葉が増えてきました。 さらに、男への感謝の言葉もひんぱんに出てくるようになりました。


そして・・・

もう少しだけ、引き伸ばさせてください。 ぜひとも、これは言っておかないと。

男がある日、古いアルバムを見ていたら、なんと例の住職そっくりの写真を見つけたのです。 つまり最初に話を聞いてくれた、謎の住職のことです。

そのそっくりさんは、男の曽祖父、つまり、ひいおじいちゃんでした。 



もうすぐ、お盆です。 

お盆といえば、そう、ご先祖さまが里帰りをするといわれてますよね。 男は、ひいおじいちゃんによーく、お礼をいおうと計画しています。

ところで、もしかしたら・・・あなたも知らないうちに、ご先祖様に守られているのかもしれませんよ。




~おしまい~



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しあわせ回数券(幸せになれるオリジナル小説)
2009年08月03日 (月) | 編集 |
しあわせ回数券


取引先のS君は実に気持ちのいい若者だ。 人間ができている。 それにいつも幸せそうだ。 

最近では公私共々なかよくなり、一緒に趣味を楽しんだりしている。 ある日のこと・・・私はついにS君に直接、聞いてみた。

「S君は若いのに、どうしてそんなに人格者なんだい? いつも笑顔が絶えないが、何か幸せのヒミツでもあるのかい」

するとS君は、たいして迷いもせずにこう言った。 

「しあわせ回数券のおかげですよ」 

しあわせ回数券?と驚く私に、S君は気持ちよく話をしてくれた。 

つい一年ほど前まで、S君はクヨクヨ・タイプの人間だった。 そればかりでなく、いつも内心イライラしていた。 不安だらけで、自分に自信がなくて、そのくせ人の悪いところはやけに目についてしまう。

ある日、会社で決定的なことが起きた。 直属の上司に人格を踏みにじられるような、ひどいことを言われたのだ。 翌日、仮病を使って休んだS君は、ふらふらと電車に乗り、意味もなく子供の頃住んでいた下町までやってきた。

下町とはいえ、だいぶ様子が変わっていた。 昔あったお店も今はない。 あの頃、気がめいると行っていた駄菓子屋さんも今はなかった。 そのかわり、駄菓子屋さんのあった場所には自販機が設置してあった。

のどが渇いたS君は、自販機で冷たいお茶でも買おうとしたが、思わずその手が止まった。 それは飲みものの自販機ではなかったのだ。 売られていたものは・・・なんと、「しあわせ回数券」だった。 これは何かの冗談だろうか? 

半ばやけになっていたS君は、300円をチャリンチャリンと入れ、そのしあわせ回数券なるものを手にした。 S君は思わず苦笑した。 紙製の、一昔前にあった電車の回数券入れのようなものが出てきたからだ。

回数券入れの裏側に 「使い方」が書いてあった。 

ー しあわせ回数券お買い上げありがとうございます。 ご使用前に使用法をお読みください。

ー このしあわせ回数券は、悩んだときだけ取り出してください。 順序良く、最初の一枚目からお使いください。 回数券はシール状になっておりますので、シールを剥がしてお読みください。

ー 注意事項。 お読みになりましたら、かならずその回数券を、細かくお切りになった上お捨てください。 これをしませんと、回数券の効果は消えてしまいますので、十分ご注意ください。

これは騙されたなと思いつつも、回数券入れをポケットに入れ、S君は家路に着いた。 

家に戻ったS君は好奇心がもたげてきて、どうしても回数券を利用してみたくなった。 そこで最初の一枚を取り出してみた。 すると・・・確かに回数券はシール状になっている。 S君は早速、そのシールを剥がしてみた。 そこに書いてあったのは・・・

「あなたの一番尊敬する人が、解決してくれます」

と書いてあった。 S君はまた苦笑した。 

「やっぱりインチキだ。 俺が尊敬しているのは亡くなったおじいちゃんだけだ。 この世にいないおじいちゃんが、どう解決してくれるというんだろう」

ところが・・・それから一時間後。 うたたねをしていたS君は、なんとおじいちゃんの夢を見たのだ。 おじいちゃんはS君にやさしく語りかけていた。

「気にしない、気にしない。 ゆるしてやれ、ゆるしてやれ」

その瞬間、S君は飛び起きた。 はっとした。 

「そうだ、上司のことだ。 上司のことを言ってるんだ。 気にしない、気にしない、ゆるしてやれ、ゆるしてやれ」

S君は、夢の中のおじいちゃんの言葉を繰り返してみた。 すると不思議と気持ちが落ち着いてきた。 上司の心ない言葉もゆるせるような気がしてきた。 

という具合に、S君は悩むたびに回数券を取り出すようになった。 

ひそかに憧れていた女の子に告白しようと迷っていたときは

「だいじょうぶ。 誠意は伝わります」 と書いてあった。

S君はこの回数券のおかげで、気持ちを伝えることができた。

不思議なことに、毎回タイムリーなアドバイスが書かれている。 悩みがちなS君は、どんどんこの回数券を利用するようになった。

そして、効き目がなくなることを恐れ、毎回、読んだら捨てることも忘れることはなかった。 

ついに、回数券があと残り一枚になってしまった。 もうこの日を最後に、回数券に頼ることはできないのだ。 最後の回数券をあけてみると、そこに書いてあったのは・・・

「最後の一枚までご使用いただきありがとうございます。 おめでとうございます! これであなたの幸せは保証されました。 しあわせ回数券卒業です」

「あなたはもうだいじょうぶです。 幸せのコツは、すべてあなたの頭の中にインプットされております。 あとは時々、頭の中の引き出しから取り出せばいいだけです」

「お気づきでしょうが、この回数券はどなたさまにも、どんな時にも役立てるようになっております。 あなたへの特別なアドバイスでもなんでもなく、基本的なことばかりなのです。 あなたは自分専用のアドバイスと思い込んでいただけです」

「それでもガッカリなさることはありません。 幸せの仕組みはむずかしいものではないからです。 基本的な、当たり前のことばかりだからです

「あなたはもうだいじょうぶです。 幸せを確約されたのですから、安心して日々笑顔でお過ごしください」

ここまで話がきたとき、私は思わず口をはさんだ。 

「なんだ、不思議でもなんでもなかったんだね。 確かにアドバイスの数々は、誰にでも当てはまりそうなことだもんね。 これはうまく騙されたな」

するとS君は

「いえ、僕は感謝してるんですよ。 だって実際に役に立ったのですから。 回数券はもう捨ててしまったけど、あの単純なアドバイスのひとつひとつは、僕の中にしみついてるんですよ」

S君は例の彼女と婚約したそうだ。 仕事は相変わらずだが、前のようには悩まなくなった。 まわりの人にも好かれ始めた。 もちろん、私のような取引先にもだ。

私は、ふと自分でもその回数券を買ってみたくなった。 そこで自販機の場所をS君に聞くと、彼はこんな風に答えた。

「それが不思議なんですよ。 あれからもう一度、自販機のあった場所に行ってみたんです。 ところが自販機は跡形もなく消えてたんですよ。 場所を間違えたのではないかって? それはないです。 以前、駄菓子屋さんがあったところですから」

というわけで、今となってはS君の話が真実であったのか確かめるすべはない。 だが私はS君の性格を知っているから、素直に信じるつもりだ。 

しあわせ回数券、実は誰でも心の中に持っているのかも知れない・・・


~おしまい~



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