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2010.11.23

専用天使 (幸せになれるオリジナル小説)

専用天使


わたしの名前は彩香です。 〇〇小学校に通っています。 今からお話すること信じてもらえないかもしれませんが、それでもよかったら聞いてください。

わたしの前には、時々天使が現われます。 いつもじゃないけど、時々現われるのです。 天使は「彩香の天使」です。 わたし専用です。 なぜわかるのかって? それは順々に話しますね。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

天使から聞いたこと。

人には皆、それぞれ専用の天使がいるのだそうです。 生まれた瞬間から、天使がひとりずつつくのだそうです。 赤ちゃんの頃は皆天使の姿が見えるのですが、大きくなるにつれ見えなくなります。

神様は優しい方です。 愛のかたまりです。 天使たちは神に仕える、やはり愛に満ちた存在です。 ですから、誰でも人は皆、生まれた瞬間は愛に満ちているのです。

誰でも愛を持って生まれはするのですが、生きていくうち、いろいろなことがあって試されます。 愛が増えるたび、実は天使の数も増えるのです。 天使は愛のある場所が大好き、自然と寄ってくるのだそうです。

どうかすると、人は一時的に愛を失います。 というか、愛するということを忘れてしまうのです。 愛のかわりに憎しみが多くなると、天使はこわがって萎縮してしまいます。 二人いた天使が一人になってしまうこともあります。

それでも、生まれた時からのおつきあいの天使だけは残っています。 神様から頼まれたから、律儀にもずっとその人のそばに寄り添っているのです。 ずっとです。 一時も離れずにです。

たとえば、あなたの心が悲しみに震えているとします。 涙をこらえて家路を急いでいるとします。 その時ふと、気持ちのよい風が通り抜けたとします。 一瞬だけ、心が安らいだとします。

それは、あなた専用の天使が、あなたをいっしょうけんめい慰めようとしているからなのです。 天使の力は万能ではないけれど、少なくともあなたの応援はできます。 専用の応援団のようなものですね。 いっしょうけんめい、応援の旗を振ってくれているのです。

たとえば、あなたが悩んでいる時、突然 友達が誘ってくれて、悩みを聞いてくれたとします。 まあ解決には及ばないけれど、ほんの少しの間、気分転換ができたとします。

これは偶然ではなく、天使のおかげなのです。 友達とあなたの縁を設定してくれたのです。 

あなたには見えないけれど、天使はあなたが幸せに健やかに生きられるよう、奔走してくれています。 なんの見返りも期待せずに。 

天使はあなたに感謝されなくても、気づかれなくても文句はいいません。 愛に満ちた存在だから、そんなことは気にしないのです。 

あなたは多分、無意識に呼吸していますよね。 内蔵の働きのことなど考えませんよね。 でも、あなた専用の天使は、あなたの内臓がうまく機能するよう、常に気を配ってくれているのです。

では、なぜ病気になったり、早く亡くなったりするのか?と疑問に思うかもしれませんね。 天使は先ほどもいったように万能ではありません。 それでも、できる範囲で自分の担当した人のことを見守り続けます。

子どものうちに天国に召されると、気の毒にと思ってしまいますよね。 でもそれは天使の力が弱かったせいではありません。 短い間でも、その魂はこの世で十分学びました。 短期間に値する、立派な魂だったのです。

あくまでこの世での生命は短かったけれど、見えない世界に戻ってから、きっとその子は幸せに暮らせることでしょう。 その新しい地で、神様がたくさんのご褒美をくれることでしょう。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

と、ここまでがわたし彩香が12歳の時に、天使から聞いたお話です。 ノートに書き留めましたが、今まで勇気がなくて誰にも見せませんでした。

わたしはもう大人になりました。 去年結婚して、今お腹に子どもがいます。 来年の春、出産予定です。 大人になってから、残念ながら天使は現われなくなりました。

でもわたしにはわかります。 感じることができるのです。 存在を。 だから何も怖くありません。 ただ天使を悲しませないよう、愛を持って生きているだけです。

子どもが生まれたら、きっとその子にも天使が見えるのでしょうね。 わたしみたいに、お話を聞くことができるかもしれません。 

生まれてくるわたしの子。 そしてどこのうちの子供も。 そして天使が見えなくなってしまった大人たちも。 どうか覚えていてください。 

あなたは愛に満ちた存在として生まれてきました。 あなたにもいます。 専属天使が。 そしてその天使は、愛のある場所が大好きです。


~おしまい~



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Posted at 11:55 | ミニ小説 | COM(11) | TB(0) |
2010.11.03

川の妖精 (幸せになれるオリジナル小説)

川の妖精


その穏やかな川は唯(ゆい)の家の前にありました。 まだ9歳の唯でしたが、彼女の好きなことはなんと川の前のベンチに腰掛け川を眺めること。 それをしているとなんとなく落ち着くというのです。

今日も唯は川を眺めています。 ぼーっとベンチに腰掛けて。 

ただ今日の彼女は少し様子が違いました。 小さな胸を痛めていたのです。 誰にも打ち明けていないけれど、彼女はあることで悩んでいたのです。

と、不思議なことが起こりました。

川の水面のキラキラが持ち上がり、白い煙のようなものがもわっと形を現したのです。 それはまるで天使のような形をしていました。 

次の瞬間、唯は思わずうろたえてしまいました。 なんとその天使さんが話しかけてきたからです。

「唯ちゃん わたしは川の妖精です。 いつも川を見に来てくれてありがとう」

唯はキョロキョロあたりを見渡しました。 他に誰もいません。 

「こわがらなくていいんですよ。 わたしの姿は唯ちゃんにしか見えません。 わたしの声は唯ちゃんにしか届きません」

そして川の妖精はこんなことをいいはじめました。

「唯ちゃんは悲しいのね。 お友達のことで困ったことがあるのね。 わたしにはわかるんですよ、唯ちゃんの心の中が」

誰にもいったことないのに! 唯は驚きすぎて、ドッキンドッキンしてしまいました。

「心の中がわかるの?」

「ええ。 唯ちゃんはお友達のひとりにいじめられているのね」

そうでした、確かに。 ここのところずっと、ある一人の友達にいじわるをされていたのです。 相手は女の子ですから乱暴なことはしませんが、ひどいことばかりいうのです。

唯がテストでいい点を取ったり、新しい洋服を着てきたりすると、かならず傷つけることをいうのです。 先生や他の友達の前では決していいません。 二人だけの時を選んでいいに来るのです。

唯は思っていました。 

「あの子のことを嫌いたくない。 いじわるされても唯は仕返ししたくない。 だって”イジワル”するって自分でもとても嫌な気持ちになるから」

「でもやっぱり、いじわるされると心がシクシク泣いてしまうの。 どうしたらいいのかなあ。 絶対 お母さんにはいいたくないよ。 だってあの子が怒られるかもしれないもん」

さらに、川の妖精は唯に語りかけました。

「唯ちゃんあのね、いじわるする子は幸せじゃないの。 なにか嫌な事があって幸せじゃないから、いじわるをしてしまうの。 唯ちゃんにはわかりますよね」

唯は素直に答えました。

「はい、わかります。 あの子のお母さんはとてもこわいの。 本当はいやなのに、たくさん塾に行かされてる。 本当は算数じゃなくてピアノがやりたいのに、あの子のお母さんはダメだって。 お勉強のほうが大切なんだって」

「唯ちゃん、あなたはとってもやさしい子ですね。 ではごほうびに、これからどうしたらいいのかをわたしが教えてあげましょう。 よーく聞いててくださいね」

それから川の妖精は、唯にわかる言葉を使ってどうしたらいいかを教えてくれました。

それでこの下の部分からは、妖精の教えてくれたことをかいつまんで書きますね。 

本当はもっと長いんだけど、短くまとめて書きます、それも子供用ではかえってわかりにくいと思うので、中学生以上向けに書き換えますね。

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子どもでも大人でも、いじわるをする人はかならずいます。 とてもかわいそうな人たちです。 

どうしてかといえば、いじわるをする人たちは満ち足りていない、不幸な人たちだからです。

いじわるをされて腹を立てるのは当然です。 ショックを受けるのも当然です。 あなたのリアクションは当然のものです。

ではこの先、どうしたらいいでしょう。

仕返しをしますか?

他の弱い相手を探していじわるしますか?

八つ当たりしますか?

よーく心に聞いてみましょう。 あなたはいじわるをされて傷つきました。 本当のあなた。 人を傷つけたいですか? いじわるして気持ちいいですか?

答えはNOですよね!

あなたはそれを求めていません。 求めていないことをすることはありませんよね。 

これからもいじわるな人はあなたを傷つけるかもしれません。 そしたら、ただ「かわいそうな人なんだから仕方ない」 そう思っていましょう。

でももっとステップアップしたい場合は、ゆるしましょう。 

どーんと太っ腹に。 

ゆるしましょう。

どんな言葉をいわれたか蒸し返すのではなく、ただ ただゆるしましょう。

さらにステップアップしたいですか?

では、祈りましょう。 

どうせなら心をこめて祈りましょう。

かわいそうな人がかわいそうでなくなるように。 幸せになるように。 

祈りましょう。 ただ ただ 祈りましょう。

ゆるして祈る。 ゆるして祈る。

これを繰り返しているうちに、だんだんあなたは幸せになっていきます。 もしかしたら相手も幸せになれるかもしれません。

ゆるすこと。 祈ること。

この2つを忘れないでいましょう。

---------------------------------------------------------------

一週間後。 唯はまた川に来ました。 今日は眺めに来たのではありません。 お礼をいいに来たのです。

でも、残念ながら、川の妖精は現われませんでした。

それでも唯は呼びかけました。

「おーい 川の妖精さーん。 いいことを教えてくれてありがとう。 唯はあの子をゆるしました。 あの子のために祈りました。 

まだあの子となかよくなれません。 でも、かならず”おはよう”っていうようにしました。 昨日、唯が落とした消しゴムをあの子が拾ってくれました。 だから”ありがとう”っていいました。

今は無理でも、いつかはなかよくなれると思います。 唯は信じてます。 

時々いじわるされても、唯はあの子をゆるします。 あの子じゃなくても、他の子でもゆるします。 

いじわるされても、唯はあの子や他の子のこと、お祈りします。 幸せになれますようにって。

妖精さん ありがとう~。 また遊びに来ますね!」

妖精は二度と現われることはありませんでしたが、そのかわり、風がそよそよっと吹いて合図をしてくれました。 

水面は日の光に照らされ、きらきら輝いています。 今日も快晴です。


~おしまい~


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Posted at 00:01 | ミニ小説 | COM(8) | TB(0) |
2010.10.23

愛を配る少女(幸せになれるオリジナル小説)

愛を配る少女


これは遠い国のお話です。 森と湖に囲まれた、ある美しい村に「愛を配る少女」と呼ばれる女の子がいました。 村の中心地、噴水のある広場に毎日やって来て、たくさんの花束を配るのです。

売るのではありません。 お花がほしい人にあげるのです。 

お花をもらった人は大抵、リピーターになります。 お花は長い間、枯れないそうですし、もらった人たちは花を見ているだけで、幸せになれるというのです。

それでいつの間にか、少女は「愛を配る少女」と呼ばれるようになりました・・・

ある日のこと、村一番の偏屈な男が広場にやって来ました。 嫌われ者です。 長いことひとりで暮らしていて、村の誰とも交流しようとしません。

男は女の子のそばに行き、いかにもばかにしたように鼻を鳴らしながら、こう声をかけました。

「お嬢ちゃん、あんたは人を幸せにする花を配ってるんだってな。 そんなすごい花ならオレにも分けてくれよ」

「はい、どうぞ」

女の子は赤や黄色の、とびっきり明るい配色の花束をさし出しました。

「ふん、ただの花束じゃないか」

男はふてぶてしい態度で受け取り、家に戻りました。 男は家にあった古びた花瓶に花を乱暴に入れました。

「この花が幸せにしてくれるって? 笑わせるじゃねえか」

男は花を眺めてみましたが、別になんとも感じません。 幸せどころか、むしろ腹が立つくらいです。 愛がどうの、幸せがどうのというのが気に食わないのです。 

次の朝のことです。 なんと花は枯れていました。

そこで男はまた広場に行き、例の少女に荒々しく声をかけました。

「おい。 花は枯れちまったぞ。 何が幸せにする花だ。 くだらんことをいいやがって」

すると女の子はまた、別の花束をさし出しました。

「はい、どうぞ」

他の人の目もあったので、男は一応、受け取りました。 そして家に帰ると、昨日のように窓辺に花を置いておきました。

ところが、次の朝も花は枯れているではありませんか。 その日から毎日、毎日、男は女の子から花を受け取るようになりました。

何をいわれても、女の子は同じように花束を男に渡すのです。 男は毒づきながらも受け取り、家の窓辺に置き続けました。

もう一ヶ月くらい続いたでしょうか。

ある日のこと。 男が女の子からもらった花を無造作に花瓶に放り込もうとしたとき、何か手紙のようなものがあることに気づきました。 花を包んでいた紙に添えられていたのです。

それは、とても幼い字で書かれた手紙でした。 男は黙って読み始めました。 そこにはこう書いてありました。

「お花をもらってくれた人へ。 わたしが育てたお花をもらってくれてありがとう。 

わたしはおばあちゃんと二人で暮らしています。 わたしはとても幸せです。 家には本はないけど、おばあちゃんが毎日、古いお話を聞かせてくれます。 だから幸せです。

家には食べる物も少ししかないけど、時々、近所の人が食べ物を分けてくれます。 だから幸せです。

貧乏なので学校に行けないけど、お花をもらってくれる人と毎日 お話ができるから、とても楽しいのです。 だから幸せです。

わたしはお人形も持ってないけど、きれいなお花を毎日 見ることができるし、お花とお話することもできます。 だからとても幸せです。

お花をもらってくれた、やさしい人。 もらってくれてありがとう、おかげでわたしはとても幸せです。 あなたの健康と幸せをおいのりしています」

男は不覚にも、涙がにじんでくるのを自覚しました。 花をばらまく奇妙な少女。 そうです、みんなのいうとおり、彼女はまさに「愛を配る少女」なのです。

次の朝。 不思議なことが起こりました。 この日はじめてお花が枯れなかったのです。 それどころか、昨日よりずっと美しく、そして優しく咲いています。

「これが愛か。 これが幸せか」

男は思わずひとりごとをいいました。

次の日、男は一冊の絵本とおいしそうなクッキーを持って、女の子のところへ行きました。

「お嬢ちゃん、花をくれないか」

「はい、どうぞ」

花束を受け取った直後、男は絵本とクッキーを女の子にさし出しました。

「いつも花をもらっているから、今日はおじさんがプレゼントしよう。 はい、どうぞ」

一瞬のうちに、女の子は目を輝かせました。

・・・さてと。

この続きは読者のあなたに、まかせるとしましょうか。 

だって、やさしいあなたならきっと、素敵なハッピーエンドにしてくれるはずだから。

~おしまい~


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Posted at 09:16 | ミニ小説 | COM(2) | TB(0) |
2010.10.03

本当の自分 ~疲れちゃった あなたへ~


本当の自分 ~疲れちゃった あなたへ~


雑踏の中、足早に家路を急ぐ人々。 そんな人たちを見ていたら、ふと一年前の不思議な体験を思い出した。 雑踏の人々、表情が険しい。 多分 疲れているのだろう。

一年前の私のように・・・

私は中堅どころの某商社に勤めるしがない会社員。 確かにかろうじて役職にはついているが、会社自体がたいしたことないので、自分の地位もそれなりのものと思っている。

この世の中。 決して働きやすい世の中とはいえない。

だが私は一家の大黒柱。 妻子を養うのは男として当然のこと。 競争社会。 生き残っていかなければ。

とはいえ、正直にいうなら、私は身も心も疲れていた。 家ではいい父親を演じ、会社では明るくユーモアのある、話のわかる上司を演じている。

本当の私。 いったいどこにあるのだろう。

とみに気にかかっていることもあった。 よしこうなったら正直に話してしまおう。 

私は同期のAに対して嫉妬心を燃やしていたのだ。

Aは気のいいヤツだ。 私を真の友だといってくれる。 欠点が見当たらない。 私のように狭量ではないし優秀だし。

そんなAが海外へ転勤になった。 優秀なAだから当然といえば当然だが・・・私は出遅れた気がした。 

私は妻と職場結婚。 Aの海外行きはいとも簡単に妻に知れてしまった。

「いいわねぇ、オシャレなパリなんて夢のようね」

妻の一言に私はひどく傷ついた。 Aが途端に憎らしくなった。 醜い心をバクロして恥ずかしいが、本心なのだ。

ある日、馴染みの居酒屋に立ち寄った。 ひとりで行くのは珍しい。 気を使う相手もないから、好きに飲んでいたら、酒に強い私もさすがに酔ったようだ。

知人でもある居酒屋の主人は心配して、その店の二階、従業員の宿舎だった部屋に泊めてくれた。

酔っ払って寝てしまった私は、夢のようなものを見た。 多分、夢なのだろう。 だがその記憶はあまりに鮮明なものだった。

そこにはトランポリンのような、マットのようなものがあり、その上で小さな男の子が楽しそうにぴょん・ぴょん跳ねていた。

男の子の顔をよく見ると、見覚えのある顔だったが誰なのかはわからない。 私はその子に声をかけた。

「何してるんだい」

その子は答えた。

「遊んでるの。 たのしいよ」

「子どもは気楽でいいね。 なんにも考えないですむから」

子どもは何も答えず、跳ね続けた。

「坊や、どこかで見たことがある気がするんだが、名前はなんというんだい?」

「ぼくはね、あなたの”本当の自分”だよ」

なんだって? 私は聞き間違ったのかと思い、もう一度言ってくれるように頼んだ。

「ぼくはね、”本当の自分”って名前なんだ」

「本当のジブン? それが名前なのかい?」

「そうだよ。 あなたのだよ。 思い出して、ぼくを思い出して」

わけのわからないことをいう子だ。 その瞬間、私ははっとした。 この子はまるで自分の子どもの頃にそっくりではないか!?

そうか。 そういう仕組みか。 私は子どもの頃の夢を見ているんだ。

「わかった、きみは”昔の俺”なんだね。 だけどそれならなんで”本当のジブン”と名乗ったんだい?」

「だってぼくは、あなたの”本当の自分”だもん。 誰にもあるんだ、本当の自分が。 ある人は少しだけさかのぼれば見つかる。 ある人は赤ちゃんの頃まで戻らないと見つからない。 そしてある人は6歳までさかのぼれば見つかる、あなたみたいにね」

本当の自分、本当の自分。 

私の本当の自分ってどんなだろう? こんなお気楽で無邪気な少年が、本当の自分なのだろうか。

と、私はあることを思い出した。 田舎の母の言葉だ。

「あんたは都会へ出て性格が変わっちゃったねぇ。 昔はのんきで無邪気な子だったのに」

私は思い出しつつあった。 子供の頃を。 いや、本当の自分を。

本当の私。 それは競争を好まない平和主義。 人の言葉に左右されないマイペースな人間。 花を好み動物をなでるのが好きで、海や山の空気を楽しむ。

それが本来の私。 本当の私なのだった。

いつの間にか芽生えた、変な競争心。 よどんだ心。

これらすべてを都会のせいにしていいのだろうか? 大人になったから、家庭を持ったからという理由にしていいのだろうか?

私が疲れているのは、本当の自分でいないからだ。 ニセモノの自分として生きているからだ。

私は飛び跳ねている少年に再び、声をかけた。

「本当の自分に戻るにはどうしたらいいんだろうね。 今からでも戻れるかな?」

少年は答えた、相変わらず ぴょん・ぴょんしながら。

「だいじょうぶ。 もう気がついたから。 気づけばだいじょうぶなんだ。 思いだしてくれてありがとう。 これでぼくは帰れるよ」

意味深な言葉を残して、少年はフェイドアウトしていった。 

これは夢だったのだろうか? 単に酔いつぶれて見た、ノスタルジックな夢に過ぎなかったのだろうか??

次の日。 私は思い切って妻に、Aに対して思っていることを打ち明けた。

「こんなことを思ってしまう俺は嫌な人間なのかな?」

素直に聞いてみた。 すると妻は笑ってこう答えた。

「まさか。 誰だって嫉妬くらいするわよ。 私は別にパリに行きたいわけじゃない、あなたと子どもたちと笑いながら暮らせたら、それが一番。 それ以上望まないわ」

霧が晴れた気がした。

これからも私は、時に邪悪な気持ちが出てくることもあるだろう。 悩んだりもするだろう。 

そういう時は、思い出そうと思う。 

ぴょん・ぴょん跳ねていた、あの少年、いや、”本当の自分”を。 

これをここまで読んでくれたあなたも、毎日の生活に疲れているかもしれない。 人が羨ましくて憎らしくて、自分が惨めで好きになれないかもしれない。

でもそんなあなたも、最初からそうだったわけじゃない。 

思いだしてごらん。

遠い昔を。

思い出してごらん。

本当の自分を。 本当の自分が、きっとあなたを救ってくれるだろう。


~おしまい~



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Posted at 11:49 | ミニ小説 | COM(0) | TB(0) |
2010.09.23

おもしろい小説を書きたかった男(オリジナル小説)

おもしろい小説を書きたかった男



小説家Aは売れない小説家だった。 生活していけないのでバイトをしている。 ひとり暮らしならそれでもいいだろうがAには妻も子もいる。 養っていかなければならない身なのだ。

Aには文章力はある。 少なくとも彼はそう思っている。 だが、とにもかくにもアイデアが浮かばない。 おもしろい小説を書きたい! 最近のAはそのことばかり考えていた。 要はアイデア、ネタがすべてなのだが、今のAには何も浮かんでこない。

と、ある夜のこと。 うとうとしかけた時だった。 声がした。 姿は見えない。 声だけだ。 現実離れしているので、姿は見えずとも、これは夢というものなのだろう。

「おまえはおもしろい小説を書きたいのだな」 威厳のあるその声は問いかけてきた。

Aはきょろきょろした。 だがやはり、姿は見えない。 声はさらにこう言ってきた。

「わたしの姿などどうでもいい。 おまえはおもしろい小説を書きたいと願った。 だから願いをかなえてあげよう」

「よいか。 ありのままを書け。 おまえの生活を忠実に描写すればよいのだ。 そうすればすべてうまくいく」

これは夢なのだろう。 あるいは幻聴? 最近ノイローゼ気味なので幻聴であっても不思議はない。

2日後のことだった。 

Aがぼんやり歩いていると、とある女性に偶然、出くわした。 昔の浮気相手B子だった。 たぶん、40近くになっているはずだが、B子は変わらず、いや昔以上に美しかった。 まぶしかった。

そして、二人の仲は復活した。 想像だにしなかったことだが、再び、AとB子は愛し合うようになったのだった。

Aはばれないよう慎重に振る舞っていたが、ある日あっさりと妻に知れてしまった。 のんきなAはそれでも、その場しのぎの嘘でごまかせると思っていたのだが、そうは問屋がおろさなかった。

妻は激怒。 小学生のひとり息子を連れて家を出てしまった。 そして数日後、離婚届を送りつけてきたのだ。

しかもこれでは終わらなかった。 妻が出て行った後、B子がAの家にやってきて、なんと居ついてしまったのだ。 さらにもう一つ予想しなかったことが起きた。

B子の現在の恋人、Cという男がAの家に乗り込んできたのだ。 B子はCのもとに帰らないと言う。 Cは、それなら自分もここで一緒に暮らすと言う。 ありえない話だが、B子のみならず、なんとCまでAの家に住みついてしまった。 いやはや。 どうしたものか。

こんな話をだらだらしても、読者の皆さんにあきれられるばかりだろう。 結論を急ごう。 奇妙な三角関係と三人の同居生活は続いた。 Aと恋敵のはずだったCの間には、不思議な友情さえ生まれていた。

3年後。 Aは成功していた。 この変てこな経験を小説にしたところベストセラーになり、映画化までされたのだ。 今やAの名前を知らない者はいない。

そう。 3年前に見た夢、いや聞いた不思議な声の通りになったのだ。 

彼は欲していたものを手に入れた。 使っても使いきれない大金。 高級住宅。 高級車。 地位。 名声。 

今、彼は大邸宅のリビングでくつろいでいるところだ。 えっ? 家族や浮気相手とその恋人はどうなったかって?

B子もCも、自分たちのことを小説に書かれたことを知ると憤慨し、Aの家を出て行ってしまった。 

成功したAは元妻に連絡を取ったが、小説を読んだ妻は決してゆるしてはくれなかった。 それどころか、子供の新しい父親となってくれる人を見つけたという。 

自分も子供も、Aには二度と会うつもりはないそうだ。 つまり、Aはひとりぼっちになってしまった・・・

Aは高級ワインと高級チーズでくつろいでいるところだ。 だが正確に言うなら、彼の心はくつろぐどころではない。 

Aはさびしかった。 空しかった。 悲しかった。 人生がつまらなかった。

少し酔いがまわった大小説家のAはつぶやいた。 

「幸せって・・・いったい何だろう?」

あなたは答えられるだろうか? この基本的な単純な質問に。


幸せとは何なのだろう?



~おしまい~



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Posted at 05:01 | ミニ小説 | COM(2) | TB(0) |
2010.09.03

今のは取り消します!


今のは取り消します! 


悩みの問屋。 奈緒子は自分のことをそう称していた。 子供の頃から悩み続けてきた。 そして大人になった今。 昔と変わらぬ思いに苦しんでいる。

なぜ私だけがうまくいかないの?

なぜ友達は幸せそうなのに私はそうじゃないの?

なぜ私は運が悪いの?

奈緒子は少しでも現状を変えたくて、今まで多くの「幸せ」に関する本を読んできた。 幸せにしてくれそうなサイトやブログも検索してきた。

そういう映画やTV番組も見てきた。 人の言葉にも耳を傾けてきた。

それでも・・・彼女は悩むことをやめない。

そんな奈緒子をあたたかい目で見てくれてる人が一人いた。

会社の後輩、といっても男の後輩だ。

2つ年下のこの後輩を、奈緒子の方もあたたかい目で見てきた。 なんとも憎めない、その性格。 恋愛の対象ではないが、話していて飽きない相手だ。

約3年つきあってきた彼と別れた翌日のこと。 めったにこんなことはないのだが、奈緒子はこの後輩を誘ってみた。

この人なら私の悩みをわかってくれるかもしれない・・・そう思ったからだ。 お酒の力を借りて、奈緒子は思ってきたこと全部、後輩に打ち明けた。

恋愛もうまくいかない。

仕事もうまくいかない。

子供の頃からずっと運が悪かった。

なぜ? 自分だけなぜ?

解決しようと努力してきたことも話した。 本、ネット、人の言葉、映画。 いろんな方法で幸福になろうと努めてきたのに。

後輩はお酒を飲みながら、じっと聞いていた。 そして、うんうんとうなずいてくれた。

「僕もね、そうだったんですよ。 昔はね」

「また! あなたはお気楽に見えるけど?」 お酒で遠慮がなくなった奈緒子はちょっと失礼なことをいってしまった。 だが後輩は気にする様子もなかった。

「僕も研究し続けてきました。 本も読んだしネットも・・・同じことしてきました」

「それで今は幸せ?」

その質問に、後輩は臆することなく断言した。

「しあわせです!」

「どうしてそう思えるようになったの? よかったら教えて」

後輩はにっこりした。

「いいですけど、その前に・・・いいこと教えましょう。 本を読んできた奈緒子さんは、常日頃口にする言葉が現実化されてしまうこと、知ってますよね」

「だからいい言葉、プラスになる言葉を言い続けた方がいいんだってことも知ってますよね」

「それはわかっているけど、運が悪いことが起こるとやっぱりマイナスワードも使っちゃうし、頭に思い浮かんじゃうんですよね」

「そういう時は取り消すんです。 毎回 取り消すんです!」

後輩のすすめる方法はこうだった。 

ついていない。 どうせうまくいかないんだ。 という言葉をついつい発してしまったら、そのたびに

「今のは取り消します!」

と強く宣言する。 これがその方法だった。

すごく単純だけど、効き目があると後輩はいう。 

確かに、いろんな方法を研究してきた奈緒子も 「取り消し」の方法までは試したことはなかった。 後輩はお気楽に見えるがいい加減ではない。 お調子者でもない。

この人がいうのなら、多少は効き目があるのだろう。 奈緒子はもう少し、彼の話を聞いてみようと思った。

そして2時間が過ぎた頃。

奈緒子はほんの少し、幸せになっている自分に気づいた。 彼氏と別れてすぐだというのに。 どうしたのだろう。

それは・・・後輩がこんなことをいったのがきっかけだった。

「僕がしあわせな理由ですか? それは、奈緒子さんとこうして一緒にいられるからです」

後輩は奈緒子のことを思い続けてきたという。 だが奈緒子にその気がないのを知っていたから、また彼氏がいるのを知っていたから、自分の胸に秘めてきたのだった。

恋人と別れたばかり。 いくらなんでも気持ちが整理できていない。

なのになぜかうれしい。 後輩のことは嫌いじゃない。 恋愛相手じゃないとは思っているけど。 それでもなぜかうれしい。

奈緒子は茶化していった。

「それ、”今のは取り消します”じゃないでしょうね?」

「これは違いますよ。 これは、”今のは強く肯定します”です」

その後。

お気に入りの後輩から教わった”今のは取り消します”の方法を使って、奈緒子は少しずつ、少しずつ、明るい方向に考えられるようになっていった。

うまくいかない。 ついてない。 だめだ。 そういう言葉が口をつくたび、彼女はすぐさま取り消す。

「今のは取り消します。 ほんとはうまくいくんです。 ほんとは運がいいんです。 最終的にはうまくいくはず。 だめなんかじゃない。 私はついてる。 恵まれてる。 だいじょうぶ、ありがとう」

で、勘のいい読者の方はもう想像がついていることと思う。

あれから半年。 週末のたび、二人はデートを重ねるようになった。 後輩はもはや後輩ではない。 奈緒子の恋人である。

奈緒子も元後輩も後ろは向かない。 時々不安になったときは「取り消し法」を使って、また前に歩き出す。

来月。 ふたりはさらなる確実な幸せに向け、婚姻届を出すことにしている。




~おしまい~


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Posted at 00:01 | ミニ小説 | COM(0) | TB(0) |
2010.08.23

過去を変えても・・・

過去を変えても・・・

その人(仮にAと呼ぼう)は人生の大半、悩み続けてきた。 幸福感を感じられないまま生きてきた。 それは自分の過去に起因すると、Aは考えていた。

Aの両親は仲が悪く、家庭内にはいつもピリピリ感が漂っていた。 幼いAは両親に嫌われないよう、顔色をうかがって行動するのが習慣になっていた。 本来、やさしく守ってくれる存在の母も、子どもに無関心な変わった親にしか見えなかった。

中高生になったAは友達との関係に悩むようになった。 いつの間にか仲間はずれにされ、孤独な日々を過ごした。 大学も受験に失敗し志望校には入れなかった。 仕方なく、すべり止めに入学することとなった。

そのため大手企業にも就職できなかった。 小さな会社を転々としているうち、やっと理想の彼と出会えた・・・と思ったのだが、それもつかの間、彼はAを置いて去っていった。



と、こんなところがAのいう、暗い過去の粗筋である。 



Aはよく夢を見る性質(たち)で、その日、誰もいない部屋でひとり眠っていた。

不思議な夢を見るのは珍しいことではない。 が、その日見た夢は一風変わっていた。 夢に出てきたのは、見たこともない白髪の老人だった。 老人はAに呼びかけた。

「お嬢さん、過去を変えたいと思ったことはないかね?」

Aは自分で夢を見ているということを自覚していた。 夢なんだから本音がいえる。 そう思ったAは

「もちろんですよ。 過去さえ変えられれば、きっと私も幸せになれるんです。 さかのぼれば生まれたときから、私はついてなかった。 環境に恵まれてなかったんです」

「では、過去を変えてみよう。 どんな過去にしたいかね?」

「どうせこれは夢だから、もう好きにいっちゃいますけど。 第一に、もっと優しくて子煩悩な両親の子に生まれたいですね。 いじめにあわない子に育ちたいし、それと大学も第一志望に受かりたいし有名企業に就職したいし、そうすれば社内かなんかで素敵な彼氏と出会えると思うし」

「よろしい。 ではシュミレーションを見てみよう。 早回しで映すよ」



と映像が現われた。 いわば映画のようなものである。 Aの望み通り、理想的な両親のもとで生まれ、いじめられることもなく育ち、希望通りの学校に入り、そして卒業、一流企業に就職。 さらに素敵な彼もできる。

そんな映像が早回しで再生された。 と、その後のAが映し出された。 

「過去を変えてからの様子を見てみよう」

と、老人がいうと、すばらしい過去を経験した後のA(シュミレーションの)が現われた。 



さぞ幸せになっているだろう、と思いきや、映像のAは沈んでいる。 暗い顔をしている。 

「あ~あ どうして私は幸せになれないんだろう。 両親のことは尊敬してるけど、なんかいちいちうるさいし。 中高生の頃はいじめられはしなかったけど、あんまり楽しいこともなかったなぁ。 大学も退屈だったし。 今の彼はやさしいけど、いつか浮気するんじゃないかしら。 私はどうせ幸せにはなれないんだわ」

それを見たAは驚いて、老人にたずねた。

「どういうことですか? 過去を変えたのに、なぜ私は悩んでるの? どうして幸せを感じてないの? 過去さえ違っていれば、すべてうまくいくはずなのに」



すると老人は静かに説明を始めた。

「それは、きみの内面に問題があるからだよ。 どんな恵まれた過去であっても同じことだ。 きみは結局、満足しない。 常に幸せでない理由を見つけようとする。 悩みを自分で作ってるんだ」

「きみは否定するだろうが、これではみずから不幸を選んでいるのと同じことだよ。 幸せになりたくないと宣言してるのと同じことだよ」

「人は生まれや環境のせいにしようとする。 その方が楽だからね。 何かのせいにしている間は、ホンモノの幸せは来ないんだ」

「きみは賢いお嬢さんだ。 これからは”過去を変える”のではなく、未来を築いていったらどうかね」



そうするにはどうしたらいいんでしょう?とAが聞こうとした時、夢から覚めてしまった。 夢とはそういうものである。 



でもこのリアルな夢を見たことで、Aは少しだけ気づき始めている。 自分を不幸だと感じてしまう理由が、過去にあったのではないということを。 

まずは過去や親や環境のせいにするのはやめよう、とAは思った。 そして・・・まわりの小さなことに感謝することから始めようと、思い始めているところである。
  


~おしまい~


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Posted at 15:07 | ミニ小説 | COM(6) | TB(0) |
2010.08.03

数字シンクロと悩めるOLの話


数字シンクロと悩めるOLの話


理数系OLの恵子は合理的な性格。 目に見えないものは信じない、科学的根拠のないものは信じないというタイプだった。

ところが最近、そんな恵子を惑わすことが頻繁に起きている。 それは

名づけるなら 「数字シンクロ」とでも呼ぶべきか!? ここ一ヶ月以上、同じ数字がどこかに現われるという現象が起きているのだ。

これだけでは説明不足なので、もう少し具体的に話そう。 たとえば恵子がふと時計に目をやる。 すると1時18分。 友達からのメールを受信する。 すると8時18分。

まだまだある。 どこかの住所を調べていると、番地が18番地。 何かの整理券をもらうと18番目。 とにもかくにも、数字を目にするたび、「18」が出てくるというわけだ。

恵子はこの数字が嫌いだった。 これから理由を説明すべく、先に話を進めるとしよう。

いくら理数系の恵子でも、これだけ続くと不安になる。 偶然にも、会社の同僚の母親は知る人ぞ知るスピリチュアル・カウンセラーだった。 ということで思い切ってこの同僚に相談することにした。

と、場面変わって、ここは同僚の自宅である。 同僚は気持ちよく、母親を恵子に紹介してくれたのだった。

ここからはかなりスピリチュアルな内容になるので、興味ある方だけ読んでいただきたい。

同僚の母親は恵子の語る数字シンクロの話を聞くと、なぜだかにっこり微笑んだ。 彼女はいった。

「あなたの場合、全く心配いりませんよ。 これはいい兆しですから」

「えっ いい兆し? どういうことでしょうか。 私、実は18という数字が一番嫌いなんです。 嫌いな数字が年中現われるって、逆に縁起が悪いのではないですか?」

母親はお茶を一杯すすると、ゆっくり話し始めた。

「あなたにはご兄弟がいましたね。 若くして亡くなった方。 お姉さんだと思うのですが」

恵子ははっとした。 

「はい、いました。 姉がいましたが15年前に亡くなったんです。 それも・・・」

ここで恵子は躊躇した。 言いづらい事情があったからだ。

「私には遠慮しなくていいんですよ。 すべてわかってますから。 お姉さんは自ら命を絶たれたのですね? お姉さんは18歳で、それも18日に亡くなった。 だからあなたは”18”の数字が嫌いなんですよね」

「そんなことまでわかるんですか? でもその通りです。 あの・・・姉は天国に行けたのでしょうか」

「そのことなら心配いりません。 今はだいじょうぶです。 ・・・ただ後悔しているのです」

同僚の母親はさらにゆっくりと言葉を選んで、話をつづけた。

「お姉さんには夢がありましたが、志半ばで挫折してしまったのです。 恵子さんには、自分のような思いをさせたくない、後悔しない人生を送ってほしいといっています」

「姉がそこにいるんですか?」

「ええ。 でもあなたには見えません。 私はお姉さんの言葉を伝えるだけしかできないんです。 でもこのことをお話すれば、数字シンクロの謎も同時に解けますよ。 よくお聞きになってくださいね」

「あなたは数字シンクロが起こる前から、ずっと悩んでいましたね。 今の仕事を続けるか、それともウェブデザイナーの道に進み直すか。

あなたは密かに、大好きだったウェブデザインの勉強を何年も続けていた。 そしてついに、ある方に認められて、独立しないかと誘われたのですよね。 

でも石橋を叩いて渡る性格のあなたは決心がつかない。 心の中で、あなたはお姉さんに質問しているはずです。 答を教えてって。 どうすべきなのか教えてほしいって。

ですが同時に、自分自身でも結論を出していますよね。 つまり二束のわらじをはくと。 両方やっていくうち、答が出るだろうと。 それでもあなたはまだ不安でいる。 一度決めたのに。 また迷いが出てきてるんですよね。

そんなあなたを、お姉さんはちょっとじれったく思っているんです。 あなたは自分で答を出したではないですか。 

それがベストの答えだと自分でわかりさえすれば、あなたも前に進めますよね。 そこでお姉さんは、そのことをあなたに知らせようと思ったのです。

お姉さんはあなただけにわかる「数字」を送り続けました。 それが”18”だったのです。 お姉さんからのメッセージだったんです。 縁起が悪いわけじゃない。 むしろいいことだったんですよ。 

あ、ちょっと待ってくださいね。 お姉さんがさらに何かいおうとしています。 お姉さんはこういってます。 

これからは18の数字が現われても驚かないで。 それは私が送ったものだから。 あなたには私の姿は見えないし声も聞こえない。 だからこういう手段で送り続けるの。

でもあなたのためにならないから、100%の答を教えることはできません。 今回のように、あなたが自分で答を見つけるのよ。 ”18”の数字は ”応援してるよ。 その調子”という意味だからね。

覚えていて。 あなたは私に会えなくてさびしいというけど、私からあなたは見えてるし、いつもあなたを見守っている。 あなたが私の名を呼びさえすれば、私は光よりも速い速度でかけつけ、あなたの肩を優しく抱くわ。 あなたは気づくかしら? なんとなく風が吹いてきたくらいにしか、思えないかもしれないわね。

でもそれは私なのよ。 覚えていて。 肉体が滅びても、私はいつまでもあなたの姉。 私はあなたを見守り続ける。 応援し続ける。 だから夢をあきらめず前に進んでいって」

同僚の家を出る頃には、恵子の心はとても明るく軽やかになっていた。 理数系だろうと何だろうと、恵子は信じる。 誰でもない、愛する姉の言葉なのだから。 

恵子がひとり暮らしのアパートにたどり着いたとき、時計のデジタルが 18:18:18(18時18分18秒)を示していたことはいうまでもない。


~おしまい~


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Posted at 10:33 | ミニ小説 | COM(6) | TB(0) |
2010.07.23

心配事をいちいち感謝に変える方法

心配事をいちいち感謝に変える方法


よっぽどの楽天家でない限り、人はたいてい心配事を秘めているものです。 

主婦の道子もそうでした。 まわりに気を使い、陽気に振舞っては見せるのですが、実はかなりの心配性。 しじゅう、いろんなことを心配していました。

道子の夫はただ今単身赴任中。 仕事が忙しくめったに帰ってきません。 が、夫は大の読書好きでして、道子におすすめの本を送ってきてくれたりするのです。

今日も夫から一冊の本が届きました。 道子が開けてみると、そのタイトルは・・・

「心配事をいちいち感謝に変える方法」とあるではありませんか。 なんか変な題名ですよね。

物は試しといいます。 道子は早速、その本を読んでみることにしました。 

では、本の内容と同時進行で進んでいきましょう。

「この本を手に取ったあなたは、一見なんの心配もない幸せそうな女性かもしれません。 でも心は裏腹に、常にいろいろな心配事に悩まされているのではありませんか?」

「たとえば、あなたは息子さんのことで悩んでいるかもしれません」

と、ここまで読んだとき道子は驚きを隠せませんでした。 図星だったからです。 でもそれは始まりでした。

本の内容は、まるで道子のために書かれたかのような内容だったからです。

「中学生の息子さんはやる気のない子なのではないですか? 誰が何をいおうと、まるでやる気を出さない。 勉強もスポーツも無関心。 ゲームとマンガに夢中。 あなたはそんな息子さんの将来を心配しているのではないですか?」

その通りでした。 中2の息子は、将来のことなどまるで考えてないように見えます。 こんな調子でまともに高校に入れるのでしょうか? その先は・・・どうするのでしょう。 

「息子さんのことに輪をかけて、もしかしたらあなたはお姑さんのことでも悩んではいませんか?」

道子はドキリとしました。 こればっかりは誰にも言ったことのない話です。 姑は道子以上に心配性。 心配のあまり、年中電話をかけてくるのです。 最近覚えたメールもひっきりなしです。

とはいえ道子は姑のことを嫌っているのではありません。 人柄を慕っているし、いろんな面で尊敬もしています。 ただあまりにも頻繁なので、正直うっとうしく感じることがあるのです。

もし姑の具合が悪くなって同居になったらどうしよう? 時々、電話に出ないことを責められたらどうしよう? メールの返信がどんどん短くなってることで腹を立てたりしないだろうか?

道子の心配はこれまた尽きないわけです。 

驚いたことに、本はすべてお見通しのようです。 読めば読むほど、ぴったりのことが書いてあります。

「では、具体的な方法に入りましょう。 それは簡単に申しあげると、心配事が生じるたびに、それを感謝に変えてしまうという方法です」

「むずかしそうに見えますが、マスターするとかんたんですし、けっこう癖になりますよ。 息子さんはやる気がないんでしたね。 でももちろん、あなたは息子を愛しているのですね」

「では息子さんに感謝してみましょう。 そうです。 あなたの方から感謝をするのです」

「息子さんは健康ですよね。 なんてすばらしい! 息子さんは声だけはいいってよくいわれるんですよね。 すばらしいじゃないですか!」

「さぁ あなたも息子さんに感謝すべきことを見つけてみてください」

ええっと 息子は気持ちがやさしくて、友達からも信頼されている。 息子はわたしが作ったものをおいしいといって食べてくれる。 息子は・・・

と思い出していくうち、なぜだか道子は胸が熱くなってきました。

「そうそう、その調子。 とてもいいですよ。 では、お姑さんのこともやってみませんか。 同じような方法です。 今度は自分でできますね?」

道子は姑のことを考えてみました。 ええっと姑は心配症だけど裏を返せば、私たちのことを考えてくれてる。 どの息子、どの嫁も差別せず、公平に扱ってくれる。

姑は歳のわりに元気で頼もしい。 どんな些細なことも、聞けばよろこんで教えてくれる。 

そうだわ。 よく考えてみれば私は姑に恵まれている。 何を悩んでいたのかしら? なぜ今まで姑に感謝しなかったのかしら?

道子は心から息子と姑、そしてこの本を送ってくれた夫に感謝をしました。 そしてこれからは、あらゆる心配事にも、「いちいち感謝に変える方法」で乗り切ってみようと思いました。

ところで、この本、なぜ道子にぴったりの内容だったのでしょう? 

それは、あとがきを読めばわかります。 あなたも読んでみます?

「道子へ。 ここまで読めば君は気づいているだろう。 これは僕からの誕生日プレゼントだ。 ”手づくりの本”の会社をやっている友人に頼んで作ってもらったんだ」

「単身赴任も長引き、君には長いこと苦労をかけた。 すまないと思ってる。 来年はそちらに戻れそうなので、君や子どもと再び暮らせること、楽しみにしてるよ」

「誕生日おめでとう! 〇〇より」


~おしまい~


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Posted at 10:40 | ミニ小説 | COM(2) | TB(0) |
2010.07.03

おすそ分けだんご



おすそ分けだんご


〇〇県〇〇市。 ここに有名なおだんご屋さんがあります。 有名なのはだんごだけではありません。 いわゆる名物女将ってのがいるんですね。

この女将さんはおいしいおだんごを提供してくれるだけでなく、人生も教えてくれるんだそうです。 本当でしょうか? ちょっと様子をうかがってみましょう。

今、店に小学生の女の子がやって来ました。 近所に越してきた優花という子です。 彼女は小学生ながら、和風甘味が大好き。 通なんです。

優花には妹がふたりいます。 妹たちは何かというと優花につきまとって来たがって、まぁかわいいんですけど、なんかうっとうしい時があるんですね。

今日は優花ひとり。 妹たちはお留守番です。

「おばさん、この店で一番人気のおだんごくださいな」

優花が声をかけると、かっぽう着姿の50代くらいの女将が現われました。 女将はにこにこしながら

「あら、今日はひとりで来たの? 一番人気といえば”おすそ分けだんご”だけど、それでいい?」

と聞きました。

「はい。 一本だけお願いします。 ここで食べていきたいの」

女将さんはたった一本でも気持ちよく売ってくれます。 お店には、時代劇ドラマに出てくるような、茶店風のイスがあって、ここで食べていくこともできるのです。

そういうお客さんには、渋い緑茶も用意されています。 こちらはサービスです。

通の優花は、おすそ分けだんごを一本受け取りました。 そして、子どもながら渋いお茶と一緒に、そのおだんごをいただきました。

「どう? おいしい?」と女将は覗き込むように聞きます。 子どもは正直ですね。 こんな感想をもらしました。

「うーん、前来たときの方がおいしかったかも。 なんでだろう?」

女将さんは嫌な顔もせず、優花の隣に腰掛け説明を始めました。

「前来たときは、家族みんなで来たでしょう? 皆で食べたのよね。 このおだんごは”おすそ分けだんご”といって、皆で分け合って食べるともっとおいしくなるおだんごなのよ」

「でもどうして? おなじおだんごなのに。 味が変わるの?」

「そうねぇ。 味が変わるわけじゃないけど・・・じゃあ、もっと詳しく説明しましょうか?」

「うん、お願い!」

ということで、女将さんはこんな説明を始めました。 

本当はもっと子供向けの言葉で説明したのですが、これを読んでくれてる、既に大人のあなたのために、大体のところを大人用に要約しますね。

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「大抵の人には欲というものがあります。 好きな物、得なことを自分だけで楽しみたい、人にあげたくない、分けたくないと思ってしまうのです」

「ですが、なぜだか、その方法だと思ったより楽しめません。 どんなにおいしいものであっても、どんなに高級なものであっても、独占していると楽しめません」

「たとえば、おだんごを例にしましょう。 おいしいおだんご。 一人で食べても分け合って食べても同じ味ですが、それでも分け合って食べた方がおいしいし、楽しいし、うれしいのです」

「おだんごを分けるということはどういうことでしょう? それは単に食べ物の分配ではなく、”愛”を持って分けている。 つまり、愛を分け合っているのと同じことなんですね」

「愛は分けると広がります。 愛は分けると二倍にも三倍にも増えるのです。 愛をもらった人もあげた人も幸せになります」

「人に分けてしまうと、一見損のように見えますが、実は一番お得ってことなんですね」

「自分も家族も、よその人も、皆が幸せになる方法。 それが愛を分け合うということなのです」

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ってなことをですね、女将さんは子どもでもわかるような言葉を使って教えてくれました。

既に大人のあなた、納得できましたでしょうか?

優花は納得できたようです。 早速、次の日、妹たちを引き連れてやって来ました。 

そこには、特に好物のピンクのおだんごを、妹に分けてあげる、やさしいおねえちゃんの姿があったそうですよ。

あなたも、おすそ分けだんご、いかが? もちろん分け合って食べてくださいね。 


~おしまい~


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Posted at 12:39 | ミニ小説 | COM(2) | TB(0) |