専用天使 (幸せになれるオリジナル小説)

専用天使


わたしの名前は彩香です。 〇〇小学校に通っています。 今からお話すること信じてもらえないかもしれませんが、それでもよかったら聞いてください。

わたしの前には、時々天使が現われます。 いつもじゃないけど、時々現われるのです。 天使は「彩香の天使」です。 わたし専用です。 なぜわかるのかって? それは順々に話しますね。

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天使から聞いたこと。

人には皆、それぞれ専用の天使がいるのだそうです。 生まれた瞬間から、天使がひとりずつつくのだそうです。 赤ちゃんの頃は皆天使の姿が見えるのですが、大きくなるにつれ見えなくなります。

神様は優しい方です。 愛のかたまりです。 天使たちは神に仕える、やはり愛に満ちた存在です。 ですから、誰でも人は皆、生まれた瞬間は愛に満ちているのです。

誰でも愛を持って生まれはするのですが、生きていくうち、いろいろなことがあって試されます。 愛が増えるたび、実は天使の数も増えるのです。 天使は愛のある場所が大好き、自然と寄ってくるのだそうです。

どうかすると、人は一時的に愛を失います。 というか、愛するということを忘れてしまうのです。 愛のかわりに憎しみが多くなると、天使はこわがって萎縮してしまいます。 二人いた天使が一人になってしまうこともあります。

それでも、生まれた時からのおつきあいの天使だけは残っています。 神様から頼まれたから、律儀にもずっとその人のそばに寄り添っているのです。 ずっとです。 一時も離れずにです。

たとえば、あなたの心が悲しみに震えているとします。 涙をこらえて家路を急いでいるとします。 その時ふと、気持ちのよい風が通り抜けたとします。 一瞬だけ、心が安らいだとします。

それは、あなた専用の天使が、あなたをいっしょうけんめい慰めようとしているからなのです。 天使の力は万能ではないけれど、少なくともあなたの応援はできます。 専用の応援団のようなものですね。 いっしょうけんめい、応援の旗を振ってくれているのです。

たとえば、あなたが悩んでいる時、突然 友達が誘ってくれて、悩みを聞いてくれたとします。 まあ解決には及ばないけれど、ほんの少しの間、気分転換ができたとします。

これは偶然ではなく、天使のおかげなのです。 友達とあなたの縁を設定してくれたのです。 

あなたには見えないけれど、天使はあなたが幸せに健やかに生きられるよう、奔走してくれています。 なんの見返りも期待せずに。 

天使はあなたに感謝されなくても、気づかれなくても文句はいいません。 愛に満ちた存在だから、そんなことは気にしないのです。 

あなたは多分、無意識に呼吸していますよね。 内蔵の働きのことなど考えませんよね。 でも、あなた専用の天使は、あなたの内臓がうまく機能するよう、常に気を配ってくれているのです。

では、なぜ病気になったり、早く亡くなったりするのか?と疑問に思うかもしれませんね。 天使は先ほどもいったように万能ではありません。 それでも、できる範囲で自分の担当した人のことを見守り続けます。

子どものうちに天国に召されると、気の毒にと思ってしまいますよね。 でもそれは天使の力が弱かったせいではありません。 短い間でも、その魂はこの世で十分学びました。 短期間に値する、立派な魂だったのです。

あくまでこの世での生命は短かったけれど、見えない世界に戻ってから、きっとその子は幸せに暮らせることでしょう。 その新しい地で、神様がたくさんのご褒美をくれることでしょう。

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と、ここまでがわたし彩香が12歳の時に、天使から聞いたお話です。 ノートに書き留めましたが、今まで勇気がなくて誰にも見せませんでした。

わたしはもう大人になりました。 去年結婚して、今お腹に子どもがいます。 来年の春、出産予定です。 大人になってから、残念ながら天使は現われなくなりました。

でもわたしにはわかります。 感じることができるのです。 存在を。 だから何も怖くありません。 ただ天使を悲しませないよう、愛を持って生きているだけです。

子どもが生まれたら、きっとその子にも天使が見えるのでしょうね。 わたしみたいに、お話を聞くことができるかもしれません。 

生まれてくるわたしの子。 そしてどこのうちの子供も。 そして天使が見えなくなってしまった大人たちも。 どうか覚えていてください。 

あなたは愛に満ちた存在として生まれてきました。 あなたにもいます。 専属天使が。 そしてその天使は、愛のある場所が大好きです。


~おしまい~



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川の妖精 (幸せになれるオリジナル小説)

川の妖精


その穏やかな川は唯(ゆい)の家の前にありました。 まだ9歳の唯でしたが、彼女の好きなことはなんと川の前のベンチに腰掛け川を眺めること。 それをしているとなんとなく落ち着くというのです。

今日も唯は川を眺めています。 ぼーっとベンチに腰掛けて。 

ただ今日の彼女は少し様子が違いました。 小さな胸を痛めていたのです。 誰にも打ち明けていないけれど、彼女はあることで悩んでいたのです。

と、不思議なことが起こりました。

川の水面のキラキラが持ち上がり、白い煙のようなものがもわっと形を現したのです。 それはまるで天使のような形をしていました。 

次の瞬間、唯は思わずうろたえてしまいました。 なんとその天使さんが話しかけてきたからです。

「唯ちゃん わたしは川の妖精です。 いつも川を見に来てくれてありがとう」

唯はキョロキョロあたりを見渡しました。 他に誰もいません。 

「こわがらなくていいんですよ。 わたしの姿は唯ちゃんにしか見えません。 わたしの声は唯ちゃんにしか届きません」

そして川の妖精はこんなことをいいはじめました。

「唯ちゃんは悲しいのね。 お友達のことで困ったことがあるのね。 わたしにはわかるんですよ、唯ちゃんの心の中が」

誰にもいったことないのに! 唯は驚きすぎて、ドッキンドッキンしてしまいました。

「心の中がわかるの?」

「ええ。 唯ちゃんはお友達のひとりにいじめられているのね」

そうでした、確かに。 ここのところずっと、ある一人の友達にいじわるをされていたのです。 相手は女の子ですから乱暴なことはしませんが、ひどいことばかりいうのです。

唯がテストでいい点を取ったり、新しい洋服を着てきたりすると、かならず傷つけることをいうのです。 先生や他の友達の前では決していいません。 二人だけの時を選んでいいに来るのです。

唯は思っていました。 

「あの子のことを嫌いたくない。 いじわるされても唯は仕返ししたくない。 だって”イジワル”するって自分でもとても嫌な気持ちになるから」

「でもやっぱり、いじわるされると心がシクシク泣いてしまうの。 どうしたらいいのかなあ。 絶対 お母さんにはいいたくないよ。 だってあの子が怒られるかもしれないもん」

さらに、川の妖精は唯に語りかけました。

「唯ちゃんあのね、いじわるする子は幸せじゃないの。 なにか嫌な事があって幸せじゃないから、いじわるをしてしまうの。 唯ちゃんにはわかりますよね」

唯は素直に答えました。

「はい、わかります。 あの子のお母さんはとてもこわいの。 本当はいやなのに、たくさん塾に行かされてる。 本当は算数じゃなくてピアノがやりたいのに、あの子のお母さんはダメだって。 お勉強のほうが大切なんだって」

「唯ちゃん、あなたはとってもやさしい子ですね。 ではごほうびに、これからどうしたらいいのかをわたしが教えてあげましょう。 よーく聞いててくださいね」

それから川の妖精は、唯にわかる言葉を使ってどうしたらいいかを教えてくれました。

それでこの下の部分からは、妖精の教えてくれたことをかいつまんで書きますね。 

本当はもっと長いんだけど、短くまとめて書きます、それも子供用ではかえってわかりにくいと思うので、中学生以上向けに書き換えますね。

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子どもでも大人でも、いじわるをする人はかならずいます。 とてもかわいそうな人たちです。 

どうしてかといえば、いじわるをする人たちは満ち足りていない、不幸な人たちだからです。

いじわるをされて腹を立てるのは当然です。 ショックを受けるのも当然です。 あなたのリアクションは当然のものです。

ではこの先、どうしたらいいでしょう。

仕返しをしますか?

他の弱い相手を探していじわるしますか?

八つ当たりしますか?

よーく心に聞いてみましょう。 あなたはいじわるをされて傷つきました。 本当のあなた。 人を傷つけたいですか? いじわるして気持ちいいですか?

答えはNOですよね!

あなたはそれを求めていません。 求めていないことをすることはありませんよね。 

これからもいじわるな人はあなたを傷つけるかもしれません。 そしたら、ただ「かわいそうな人なんだから仕方ない」 そう思っていましょう。

でももっとステップアップしたい場合は、ゆるしましょう。 

どーんと太っ腹に。 

ゆるしましょう。

どんな言葉をいわれたか蒸し返すのではなく、ただ ただゆるしましょう。

さらにステップアップしたいですか?

では、祈りましょう。 

どうせなら心をこめて祈りましょう。

かわいそうな人がかわいそうでなくなるように。 幸せになるように。 

祈りましょう。 ただ ただ 祈りましょう。

ゆるして祈る。 ゆるして祈る。

これを繰り返しているうちに、だんだんあなたは幸せになっていきます。 もしかしたら相手も幸せになれるかもしれません。

ゆるすこと。 祈ること。

この2つを忘れないでいましょう。

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一週間後。 唯はまた川に来ました。 今日は眺めに来たのではありません。 お礼をいいに来たのです。

でも、残念ながら、川の妖精は現われませんでした。

それでも唯は呼びかけました。

「おーい 川の妖精さーん。 いいことを教えてくれてありがとう。 唯はあの子をゆるしました。 あの子のために祈りました。 

まだあの子となかよくなれません。 でも、かならず”おはよう”っていうようにしました。 昨日、唯が落とした消しゴムをあの子が拾ってくれました。 だから”ありがとう”っていいました。

今は無理でも、いつかはなかよくなれると思います。 唯は信じてます。 

時々いじわるされても、唯はあの子をゆるします。 あの子じゃなくても、他の子でもゆるします。 

いじわるされても、唯はあの子や他の子のこと、お祈りします。 幸せになれますようにって。

妖精さん ありがとう~。 また遊びに来ますね!」

妖精は二度と現われることはありませんでしたが、そのかわり、風がそよそよっと吹いて合図をしてくれました。 

水面は日の光に照らされ、きらきら輝いています。 今日も快晴です。


~おしまい~


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愛を配る少女(幸せになれるオリジナル小説)

愛を配る少女


これは遠い国のお話です。 森と湖に囲まれた、ある美しい村に「愛を配る少女」と呼ばれる女の子がいました。 村の中心地、噴水のある広場に毎日やって来て、たくさんの花束を配るのです。

売るのではありません。 お花がほしい人にあげるのです。 

お花をもらった人は大抵、リピーターになります。 お花は長い間、枯れないそうですし、もらった人たちは花を見ているだけで、幸せになれるというのです。

それでいつの間にか、少女は「愛を配る少女」と呼ばれるようになりました・・・

ある日のこと、村一番の偏屈な男が広場にやって来ました。 嫌われ者です。 長いことひとりで暮らしていて、村の誰とも交流しようとしません。

男は女の子のそばに行き、いかにもばかにしたように鼻を鳴らしながら、こう声をかけました。

「お嬢ちゃん、あんたは人を幸せにする花を配ってるんだってな。 そんなすごい花ならオレにも分けてくれよ」

「はい、どうぞ」

女の子は赤や黄色の、とびっきり明るい配色の花束をさし出しました。

「ふん、ただの花束じゃないか」

男はふてぶてしい態度で受け取り、家に戻りました。 男は家にあった古びた花瓶に花を乱暴に入れました。

「この花が幸せにしてくれるって? 笑わせるじゃねえか」

男は花を眺めてみましたが、別になんとも感じません。 幸せどころか、むしろ腹が立つくらいです。 愛がどうの、幸せがどうのというのが気に食わないのです。 

次の朝のことです。 なんと花は枯れていました。

そこで男はまた広場に行き、例の少女に荒々しく声をかけました。

「おい。 花は枯れちまったぞ。 何が幸せにする花だ。 くだらんことをいいやがって」

すると女の子はまた、別の花束をさし出しました。

「はい、どうぞ」

他の人の目もあったので、男は一応、受け取りました。 そして家に帰ると、昨日のように窓辺に花を置いておきました。

ところが、次の朝も花は枯れているではありませんか。 その日から毎日、毎日、男は女の子から花を受け取るようになりました。

何をいわれても、女の子は同じように花束を男に渡すのです。 男は毒づきながらも受け取り、家の窓辺に置き続けました。

もう一ヶ月くらい続いたでしょうか。

ある日のこと。 男が女の子からもらった花を無造作に花瓶に放り込もうとしたとき、何か手紙のようなものがあることに気づきました。 花を包んでいた紙に添えられていたのです。

それは、とても幼い字で書かれた手紙でした。 男は黙って読み始めました。 そこにはこう書いてありました。

「お花をもらってくれた人へ。 わたしが育てたお花をもらってくれてありがとう。 

わたしはおばあちゃんと二人で暮らしています。 わたしはとても幸せです。 家には本はないけど、おばあちゃんが毎日、古いお話を聞かせてくれます。 だから幸せです。

家には食べる物も少ししかないけど、時々、近所の人が食べ物を分けてくれます。 だから幸せです。

貧乏なので学校に行けないけど、お花をもらってくれる人と毎日 お話ができるから、とても楽しいのです。 だから幸せです。

わたしはお人形も持ってないけど、きれいなお花を毎日 見ることができるし、お花とお話することもできます。 だからとても幸せです。

お花をもらってくれた、やさしい人。 もらってくれてありがとう、おかげでわたしはとても幸せです。 あなたの健康と幸せをおいのりしています」

男は不覚にも、涙がにじんでくるのを自覚しました。 花をばらまく奇妙な少女。 そうです、みんなのいうとおり、彼女はまさに「愛を配る少女」なのです。

次の朝。 不思議なことが起こりました。 この日はじめてお花が枯れなかったのです。 それどころか、昨日よりずっと美しく、そして優しく咲いています。

「これが愛か。 これが幸せか」

男は思わずひとりごとをいいました。

次の日、男は一冊の絵本とおいしそうなクッキーを持って、女の子のところへ行きました。

「お嬢ちゃん、花をくれないか」

「はい、どうぞ」

花束を受け取った直後、男は絵本とクッキーを女の子にさし出しました。

「いつも花をもらっているから、今日はおじさんがプレゼントしよう。 はい、どうぞ」

一瞬のうちに、女の子は目を輝かせました。

・・・さてと。

この続きは読者のあなたに、まかせるとしましょうか。 

だって、やさしいあなたならきっと、素敵なハッピーエンドにしてくれるはずだから。

~おしまい~


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本当の自分 ~疲れちゃった あなたへ~


本当の自分 ~疲れちゃった あなたへ~


雑踏の中、足早に家路を急ぐ人々。 そんな人たちを見ていたら、ふと一年前の不思議な体験を思い出した。 雑踏の人々、表情が険しい。 多分 疲れているのだろう。

一年前の私のように・・・

私は中堅どころの某商社に勤めるしがない会社員。 確かにかろうじて役職にはついているが、会社自体がたいしたことないので、自分の地位もそれなりのものと思っている。

この世の中。 決して働きやすい世の中とはいえない。

だが私は一家の大黒柱。 妻子を養うのは男として当然のこと。 競争社会。 生き残っていかなければ。

とはいえ、正直にいうなら、私は身も心も疲れていた。 家ではいい父親を演じ、会社では明るくユーモアのある、話のわかる上司を演じている。

本当の私。 いったいどこにあるのだろう。

とみに気にかかっていることもあった。 よしこうなったら正直に話してしまおう。 

私は同期のAに対して嫉妬心を燃やしていたのだ。

Aは気のいいヤツだ。 私を真の友だといってくれる。 欠点が見当たらない。 私のように狭量ではないし優秀だし。

そんなAが海外へ転勤になった。 優秀なAだから当然といえば当然だが・・・私は出遅れた気がした。 

私は妻と職場結婚。 Aの海外行きはいとも簡単に妻に知れてしまった。

「いいわねぇ、オシャレなパリなんて夢のようね」

妻の一言に私はひどく傷ついた。 Aが途端に憎らしくなった。 醜い心をバクロして恥ずかしいが、本心なのだ。

ある日、馴染みの居酒屋に立ち寄った。 ひとりで行くのは珍しい。 気を使う相手もないから、好きに飲んでいたら、酒に強い私もさすがに酔ったようだ。

知人でもある居酒屋の主人は心配して、その店の二階、従業員の宿舎だった部屋に泊めてくれた。

酔っ払って寝てしまった私は、夢のようなものを見た。 多分、夢なのだろう。 だがその記憶はあまりに鮮明なものだった。

そこにはトランポリンのような、マットのようなものがあり、その上で小さな男の子が楽しそうにぴょん・ぴょん跳ねていた。

男の子の顔をよく見ると、見覚えのある顔だったが誰なのかはわからない。 私はその子に声をかけた。

「何してるんだい」

その子は答えた。

「遊んでるの。 たのしいよ」

「子どもは気楽でいいね。 なんにも考えないですむから」

子どもは何も答えず、跳ね続けた。

「坊や、どこかで見たことがある気がするんだが、名前はなんというんだい?」

「ぼくはね、あなたの”本当の自分”だよ」

なんだって? 私は聞き間違ったのかと思い、もう一度言ってくれるように頼んだ。

「ぼくはね、”本当の自分”って名前なんだ」

「本当のジブン? それが名前なのかい?」

「そうだよ。 あなたのだよ。 思い出して、ぼくを思い出して」

わけのわからないことをいう子だ。 その瞬間、私ははっとした。 この子はまるで自分の子どもの頃にそっくりではないか!?

そうか。 そういう仕組みか。 私は子どもの頃の夢を見ているんだ。

「わかった、きみは”昔の俺”なんだね。 だけどそれならなんで”本当のジブン”と名乗ったんだい?」

「だってぼくは、あなたの”本当の自分”だもん。 誰にもあるんだ、本当の自分が。 ある人は少しだけさかのぼれば見つかる。 ある人は赤ちゃんの頃まで戻らないと見つからない。 そしてある人は6歳までさかのぼれば見つかる、あなたみたいにね」

本当の自分、本当の自分。 

私の本当の自分ってどんなだろう? こんなお気楽で無邪気な少年が、本当の自分なのだろうか。

と、私はあることを思い出した。 田舎の母の言葉だ。

「あんたは都会へ出て性格が変わっちゃったねぇ。 昔はのんきで無邪気な子だったのに」

私は思い出しつつあった。 子供の頃を。 いや、本当の自分を。

本当の私。 それは競争を好まない平和主義。 人の言葉に左右されないマイペースな人間。 花を好み動物をなでるのが好きで、海や山の空気を楽しむ。

それが本来の私。 本当の私なのだった。

いつの間にか芽生えた、変な競争心。 よどんだ心。

これらすべてを都会のせいにしていいのだろうか? 大人になったから、家庭を持ったからという理由にしていいのだろうか?

私が疲れているのは、本当の自分でいないからだ。 ニセモノの自分として生きているからだ。

私は飛び跳ねている少年に再び、声をかけた。

「本当の自分に戻るにはどうしたらいいんだろうね。 今からでも戻れるかな?」

少年は答えた、相変わらず ぴょん・ぴょんしながら。

「だいじょうぶ。 もう気がついたから。 気づけばだいじょうぶなんだ。 思いだしてくれてありがとう。 これでぼくは帰れるよ」

意味深な言葉を残して、少年はフェイドアウトしていった。 

これは夢だったのだろうか? 単に酔いつぶれて見た、ノスタルジックな夢に過ぎなかったのだろうか??

次の日。 私は思い切って妻に、Aに対して思っていることを打ち明けた。

「こんなことを思ってしまう俺は嫌な人間なのかな?」

素直に聞いてみた。 すると妻は笑ってこう答えた。

「まさか。 誰だって嫉妬くらいするわよ。 私は別にパリに行きたいわけじゃない、あなたと子どもたちと笑いながら暮らせたら、それが一番。 それ以上望まないわ」

霧が晴れた気がした。

これからも私は、時に邪悪な気持ちが出てくることもあるだろう。 悩んだりもするだろう。 

そういう時は、思い出そうと思う。 

ぴょん・ぴょん跳ねていた、あの少年、いや、”本当の自分”を。 

これをここまで読んでくれたあなたも、毎日の生活に疲れているかもしれない。 人が羨ましくて憎らしくて、自分が惨めで好きになれないかもしれない。

でもそんなあなたも、最初からそうだったわけじゃない。 

思いだしてごらん。

遠い昔を。

思い出してごらん。

本当の自分を。 本当の自分が、きっとあなたを救ってくれるだろう。


~おしまい~



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おもしろい小説を書きたかった男(オリジナル小説)

おもしろい小説を書きたかった男



小説家Aは売れない小説家だった。 生活していけないのでバイトをしている。 ひとり暮らしならそれでもいいだろうがAには妻も子もいる。 養っていかなければならない身なのだ。

Aには文章力はある。 少なくとも彼はそう思っている。 だが、とにもかくにもアイデアが浮かばない。 おもしろい小説を書きたい! 最近のAはそのことばかり考えていた。 要はアイデア、ネタがすべてなのだが、今のAには何も浮かんでこない。

と、ある夜のこと。 うとうとしかけた時だった。 声がした。 姿は見えない。 声だけだ。 現実離れしているので、姿は見えずとも、これは夢というものなのだろう。

「おまえはおもしろい小説を書きたいのだな」 威厳のあるその声は問いかけてきた。

Aはきょろきょろした。 だがやはり、姿は見えない。 声はさらにこう言ってきた。

「わたしの姿などどうでもいい。 おまえはおもしろい小説を書きたいと願った。 だから願いをかなえてあげよう」

「よいか。 ありのままを書け。 おまえの生活を忠実に描写すればよいのだ。 そうすればすべてうまくいく」

これは夢なのだろう。 あるいは幻聴? 最近ノイローゼ気味なので幻聴であっても不思議はない。

2日後のことだった。 

Aがぼんやり歩いていると、とある女性に偶然、出くわした。 昔の浮気相手B子だった。 たぶん、40近くになっているはずだが、B子は変わらず、いや昔以上に美しかった。 まぶしかった。

そして、二人の仲は復活した。 想像だにしなかったことだが、再び、AとB子は愛し合うようになったのだった。

Aはばれないよう慎重に振る舞っていたが、ある日あっさりと妻に知れてしまった。 のんきなAはそれでも、その場しのぎの嘘でごまかせると思っていたのだが、そうは問屋がおろさなかった。

妻は激怒。 小学生のひとり息子を連れて家を出てしまった。 そして数日後、離婚届を送りつけてきたのだ。

しかもこれでは終わらなかった。 妻が出て行った後、B子がAの家にやってきて、なんと居ついてしまったのだ。 さらにもう一つ予想しなかったことが起きた。

B子の現在の恋人、Cという男がAの家に乗り込んできたのだ。 B子はCのもとに帰らないと言う。 Cは、それなら自分もここで一緒に暮らすと言う。 ありえない話だが、B子のみならず、なんとCまでAの家に住みついてしまった。 いやはや。 どうしたものか。

こんな話をだらだらしても、読者の皆さんにあきれられるばかりだろう。 結論を急ごう。 奇妙な三角関係と三人の同居生活は続いた。 Aと恋敵のはずだったCの間には、不思議な友情さえ生まれていた。

3年後。 Aは成功していた。 この変てこな経験を小説にしたところベストセラーになり、映画化までされたのだ。 今やAの名前を知らない者はいない。

そう。 3年前に見た夢、いや聞いた不思議な声の通りになったのだ。 

彼は欲していたものを手に入れた。 使っても使いきれない大金。 高級住宅。 高級車。 地位。 名声。 

今、彼は大邸宅のリビングでくつろいでいるところだ。 えっ? 家族や浮気相手とその恋人はどうなったかって?

B子もCも、自分たちのことを小説に書かれたことを知ると憤慨し、Aの家を出て行ってしまった。 

成功したAは元妻に連絡を取ったが、小説を読んだ妻は決してゆるしてはくれなかった。 それどころか、子供の新しい父親となってくれる人を見つけたという。 

自分も子供も、Aには二度と会うつもりはないそうだ。 つまり、Aはひとりぼっちになってしまった・・・

Aは高級ワインと高級チーズでくつろいでいるところだ。 だが正確に言うなら、彼の心はくつろぐどころではない。 

Aはさびしかった。 空しかった。 悲しかった。 人生がつまらなかった。

少し酔いがまわった大小説家のAはつぶやいた。 

「幸せって・・・いったい何だろう?」

あなたは答えられるだろうか? この基本的な単純な質問に。


幸せとは何なのだろう?



~おしまい~



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